ECサイトのフルスクラッチ開発!メリットや事例から注意点まで解説

2022.10.13
ラボ型・オフショア開発
安藤 大海
ECサイトのフルスクラッチ開発!メリットや事例から注意点まで解説
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こんにちは。Wakka Inc.のWebディレクターの安藤です。
「フルスクラッチでのECサイト構築に興味がある」
「大企業はなぜフルスクラッチ開発を選ぶのかが気になる」
ECサイトを構築する手法の一つに、フルスクラッチ開発があります。
様々な手法が存在する中で、なぜフルスクラッチが選ばれるのか気になる方も多いのではないでしょうか。本記事では、

  • フルスクラッチの特徴やメリット
  • フルスクラッチの構築事例
  • フルスクラッチ以外の構築手法
  • フルスクラッチ開発のプロセス

などを解説いたします。フルスクラッチでサイト構築しようと思われている方は、ぜひご参考になさってください。

Wakka Inc.ではフルスクラッチEC開発サービスを提供しています。特徴や事例を掲載しているので、まずはサービスページをご確認ください。

目次

フルスクラッチとは

フルスクラッチとは元々、粘土などで模型を組み立上げるという意味です。
プラモデルなどの模型はある程度型があり、枠から切りはずし、組み立てて完成します。そのような型を使わずに、1から素材だけで模型を組み上げていく手法をフルスクラッチと呼びます。そこから転じて、既存のものを使わずにすべて自前で開発する手法をフルスクラッチ開発というようになりました。

フルスクラッチはスーツのオーダーメードのようなもの

フルスクラッチは、スーツをオーダーメードで作成する手法と似ています。体の寸法を測り、素材を選び、スーツを作成していく。
吊るしのスーツを購入するのではなく、素材と裁縫で最終的に仕上がったスーツを購入する手法です。
オーダーメイドは、前提として個人の体に合わせて作成していきます。
フルスクラッチも同じように、自社の状況に合わせて1から作成していくため、この世に1つだけのECサイトを生み出せるのです。

▼フルスクラッチ開発については下記の記事も参考にしてください。

ECサイトをフルスクラッチで構築するメリット

ECサイトをフルスクラッチで構築すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、フルスクラッチ開発の3つのメリットをご紹介いたします。

自社の状況に最適なシステムを構築できる

フルスクラッチのメリットは、非常に自由度が高い開発方法である点です。ECサイトに盛り込みたい機能や、改善ポイントなどは、ほとんどすべて実現可能です。

「ECサイトのデザインにこだわりたい」
「カート周りの施策を繰り返し行い、最適化したい」
など、ECサイトを運用していくと、様々なニーズが出てくるでしょう。改善要望が出るたびにECパッケージなどのベンダーに依頼して構築してもらうと、莫大な時間と費用がかかります。
改善ポイントが実装されたときには、世の中のトレンドから取り残されている場合も少なくありません。自前で開発するフルスクラッチならば、改善も内製化できるため、敏感なトレンドにも柔軟に対応できます。

  • 問題解決にはどのような施策が必要か(Plan)
  • 施策を実行する(Do)
  • 改善の方法は適切だったか(Check)
  • 次回以降の改善のポイントはなにか(Action)

いわゆるPDCAサイクルを高速で回せるのが、フルスクラッチでECサイトを構築する非常に大きなメリットです。
例えば、ASPなどの構築方法では型がある程度決まっているため、カート周りのカスタマイズは難しいでしょう。
売上規模が大きくなればなるほど、カート周りのカスタマイズで最終的な売上が大きく変わるため、PDCAサイクルを高速で回せば売上の最大化が望めます。
このように自由度、オリジナリティ、分析・改善のスピード感などが、フルスクラッチでECサイトを構築するメリットと言えるでしょう。

保守や外部環境の変化に柔軟に対応できる

ECサイトは構築したら終わりではありません。システムの完成後は、適切に運用するための保守業務を行う必要があります。
ECサイトを運用していくうちに、予期せぬエラーや不具合などが起きる可能性があり、都度修正を行わなくてはなりません。
ECパッケージで構築する場合は、保守業務をベンダーに依頼する必要がありますが、フルスクラッチはすべて自社で開発しているため、保守業務も自社で完結できます。

またECサイトは内部環境だけでなく、外部環境も変化する可能性があります。
たとえば消費税の税制改正、法改正などの外部環境が変わったときに、フルスクラッチならば要件の修正、改善を素早く実行可能です。
ECパッケージで構築している場合、追加の機能構築は新たに依頼をかける必要があり、かえって割高になってしまう恐れもあるのです。

拡張性が高い

フルスクラッチのもう1つのメリットとして、どのような外部システムでも柔軟に連携できる点が挙げられます。
例えばバックグラウンド業務では、発送システムとの連携で、生産性がアップします。その他にも

  • 決済管理システム
  • 会計ソフト

などの既存システムとも連携できます。フロント業務では、CRM(Customer Relationship Management)やサイト分析可視化ツールなどが代表的です。
既に稼働中のものをまるごと変えてしまうと、新たなツールに慣れる時間が必要です。そのため人的なリソースを大幅に取られてしまうので、既存のシステムに連携できるECサイトが理想的でしょう。
どのようなものでも柔軟に対応できるのは、フルスクラッチ開発の大きなメリットと言えます。

ECサイトをフルスクラッチで構築するデメリット

フルスクラッチは理想的なECサイトを構築できる手法ですが、デメリットもあります。ここからは、フルスクラッチ開発のデメリットを、3つのポイントに絞ってご紹介いたします。

開発費用が高額

フルスクラッチは1からすべて開発するので、一般的な手法と比べて開発費用が高額になります。数千万円ほどの初期費用だけでなくランニングコストも数十万円程度かかるのが一般的です。
年商規模としては数十億円規模のサイトでないと、費用対効果が優れているとは言えません。
なんとなくフルスクラッチ開発で進めるのではなく、ECサイトの規模、成長率を考慮しながら構築方法を決定するのが望ましいでしょう。

開発期間が長い

フルスクラッチは一般的な構築方法と比べて、ECサイトをオープンするまでの期間が長いのが特徴です。早くて半年、長いもので数年の時間を要する場合もあります。
とにかく早くECサイトを構築したいとお考えの場合は、不向きな構築方法と言えるでしょう。

高い技術力を持つ人材が必要

フルスクラッチ開発は、1からすべて自前で組み上げていくので、高い専門性を持つ人材を確保しなければなりません。ソースコードはもちろん、サイトデザインにも明るい人物が必要でしょう。
保守業務も自前で行うため、セキュリティに精通した人材も確保しなければなりません。
さらにサイトの集客やCVR(コンバージョン率)の改善のためには、マーケティングの知識を持つ人材も不可欠です。

ECサイトの構築、運営に会社の総力を上げて取り組む必要があります。多くの専門的な人材の確保、マネジメントを行う体制がなければフルスクラッチ開発は難しいでしょう。
もし自社のリソースに不安がある場合には、ラボ型開発などによって海外の優秀なIT人材を活用するのも有効です。

フルスクラッチ以外にECサイトを構築する手法

フルスクラッチは売上の最大化を望める開発手法ですが、すべての企業に向いているわけではありません。ECサイトの規模に応じて、適切な構築方法を選ぶ必要があります。
そこでここからは、代表的な4つのECサイト構築方法をご紹介いたします。

モール型ECサイト

モール型ECサイトとは、集客力があるサイトにサイト利用料を支払い出店する方法を指します。モール型ECサイトはさらに、テナント型とマーケットプレイス型の2つに分けられます。テナント型は、商店街のテナントに出店するのと同じようなイメージです。
代用的な企業には楽天などが挙げられます。
テナント型は、テナントを貸しているような出店形式をとっているため、

  • 受注管理
  • 配送
  • 商品登録

などは自社で行う必要があります。Amazonに代表されるマーケットプレイス型は、サイトに出品する形式をとります。道の駅の野菜売り場が、マーケットプレイス型のイメージに近いでしょうか。
道の駅には農家各自が商店を構えているのではなく、各農家が野菜を納品する形態です。
マーケットプレイス型では、商品はサイトが管理し、注文が入ると業者に連絡が入り、発注作業に入ります。

モール型ECサイトのメリットは、既に集客力のあるサイトに出店するため、集客の負担が小さい点です。それぞれのサイトに信頼感があるので、顧客に安心して購入してもらえるのもメリットでしょう。
モール型ECサイトのデメリットは、自社の顧客リストを蓄積できないことが挙げられます。
顧客も、各ショップではなく「楽天やAmazonで購入した」という印象が強くなってしまうため、自社のブランド力向上には向いていないでしょう。
モール型ECサイトは、メインで運用していくよりも、サブのECサイトとして育てていくのが望ましい手法と言えます。

ASP(Application Service Provider)

ASPは、非常に手軽にECサイトを構築できる手法として注目を集めています。
ASPの場合には、デフォルトでECサイトに必要なカート機能や決済機能などを備えたシステムを利用して、ECサイトを構築します。
自社でサーバーを構築する必要がなく、利用料金も月額無料から1万円程度で利用できるため、導入のハードルは低いでしょう。
また専門的な知識も必要とせず、直感的な作業でECサイトを構築できるので、「とりあえず自社のECサイトを構築したい」とお考えの企業には適したサービスです。

ASPは、ECサイトのテンプレート(型)が決まっているため、カスタマイズ性に乏しいのがデメリットと言えるでしょう。デザインのカスタマイズも難しいため、競合他社との差別化を図りにくくなってしまいます。
また基幹システムなどとの連携を前提としていないため、自社で使っているシステムと連携できない可能性も出てきます。
ECサイトの規模が大きくなればなるほど、生産性向上の足かせとなるため、場合によっては別の手法で再構築する必要も出てくるでしょう。

オープンソース

オープンソースは、初期費用やランニングコストを大幅に抑えられるECサイトの構築方法です。まったく無料で運営できるわけではなく、

  • サーバー費用(レンタルサーバー代など)
  • ドメイン取得料
  • 決済手数料

などはかかります。シンプルなECサイトであれば上記の費用のみで維持できるため、月額費用がかかるASPでECサイトを構築するよりも、安価に運営できるかもしれません。
ASPは、テンプレート通りのECサイトしか構築できませんでした。
しかし、オープンソースはある程度のカスタマイズができるため、独自性のあるECサイトを構築できます。
拡張性に関しても、プラグインの実装で基幹システムなどにも連携できるため、ASPより利便性の高いサイトを構築できる可能性を秘めているのです。

メリットばかりに見えるオープンソースでのECサイト構築ですが、デメリットもあります。
まず、専門的な知識が必要です。
プログラミング言語に精通していないと、本格的なデザインや機能の実装は難しいでしょう。
またオープンソースは基本的にソースコードを公開しているため、ハッカーに狙われやすい傾向があります。ECサイトにおけるセキュリティは、重大なトラブルに発展しかねないため、万全にしなくてはなりません。
プログラムやセキュリティに関しての専門的な知識を持つ人材が社内にいる場合を除き、ECサイトを安定的に運用するには、エンジニアなどを新たに確保する必要が出てくるでしょう。
実際の構築費用は抑えられますが、人的なコストがかかります。

  • 自社に開発力のあるエンジニアがいない
  • 専門の開発部門が無い

場合には、オープンソースでの構築はあまりおすすめできません。

パッケージ構築

パッケージ構築とは、ECサイトに必要な機能を詰め合わせた商品をベンダーから購入して、ECサイトを構築する手法を指します。パッケージ構築のメリットは、カスタマイズ性が優れている点です。
ECサイトを構築、運営する前にベンダーに依頼をかけ、自社の状況に合わせたサイト構築を行います。
ASPでは難しかったカート周りのカスタマイズなどを行うことで、サイトの改善や分析にも役立つでしょう。

オープンソースでも、ある程度は自由にカスタマイズできます。
しかしパッケージ構築ではベンダーがカスタマイズを行うため、自社に専門的な知識を持つ人間がいなくても、独自色を持つサイトを構築できるのです。もちろん、自社の基幹システムや外部サービスとの連携にも柔軟に対応可能です。
セキュリティに関しても、外部にソースコードを公開していないため、セキュリティ対策としてパッケージ構築を選ぶ企業も増えています。
またベンダーの長期的なサポートも期待でき、構築だけでなく、集客のコンサルティングを行っているベンターがあるのも特徴的です。

パッケージ構築には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。
まずはASP、オープンソースよりも大きな費用がかかる点です。パッケージでECサイトを構築する費用は、500万円程度が一般的です。
ECサイトの規模感によっては、導入のハードルが高くなるかもしれません。
またECパッケージは、ベンダーが企業に合わせてカスタマイズしたものを納品するため、導入後2〜3年すると陳腐化してしまう可能性も出てきます。
ECパッケージを導入する場合は、2〜3年後の更新費用も見越して導入の可否を決定する必要があるでしょう。

ECサイトをフルスクラッチで構築する具体的手法

ECサイトをフルスクラッチで構築すると決定した場合、具体的にどのように構築していけばよいのでしょうか。代表的な構築手法を順番にご紹介いたします。

要求定義・要件定義

要求定義・要件定義とは、企業の望む状態を把握し、その要求に答えるためには何が必要かを明文化する工程を指します。要求定義・要件定義は、ECサイトの成功の鍵を握る最重要項目です。
まずはECサイトをフルスクラッチで構築する目的を定めましょう。

「サイトをリニューアルしたい」
「売上を最大にしたい」
など、プロジェクトの具体的なゴール(KPI)を定める必要があります。現在すでに稼働中のECサイトがあれば、現状の問題点や課題を洗い出しましょう。
「フルスクラッチで開発した場合、費用とサイトの売上が見合うか?」も合わせて検討します。
目標が定まれば開発スケジュールなども定まってきます。
「いつの時点で新しいECサイトをリリースするか?」も目標として定めましょう。

また自社がどのようなECサイトを目指したいかを徹底的に調査し、理想のサイトを作り上げるためにはどのような機能が必要かを盛り込んでいきます。
ヒアリング調査を徹底しないと、「どのようなECサイトを作ればよいか?」がわからないだけでなく、機能の付け足しなどでサイトのオープンが大幅にずれ込むこともあるでしょう。
一度ヒアリングして終わりにせず、ヒアリングした内容を元に業務フローを作成し、細かい打ち合わせを繰り返していく必要があります。
望むものをすべて盛り込めるのがフルスクラッチ開発のメリットですが、「ECサイトのオープン時期と実装期間にズレが生じていないか?」のスケジュール管理も重要です。

実装するまでにあまりに時間がかかるようであれば、機能を取捨選択しましょう。取捨選択して最終的に完成した要件定義書がプログラマーにとってのスタートです。
ここから機能を実装するためのプログラミングが開始されます。
もし外部にフルスクラッチ開発を委託するような場合は、最終的な成果物とずれていないかのチェックにもなります。要求定義・要件定義はECサイトの骨格となるため、時間をかけて作り込みましょう。

システム設計

要件定義が終わったら、次の段階としてシステム設計を行います。システム設計は、料理でいうとレシピを作成する工程に近いでしょう。
制作側はイメージ図などを用いて、最終的な構成物に対してのイメージを作り、企業側の希望とすり合わせます。
ECサイトを構築するために「どのようなプログラミング言語を使うのか?」「サイトのデザインはどうするか?」などの大枠を決めておきます。
要件定義で盛り込まれていても、本当に必要な機能なのか、機能がダブっていないかなどの確認を行う必要があるでしょう。基本的に設計が必要なものは以下の通りです。

  • システム設計
  • レイアウト設計
  • 帳票管理設計
  • データベース設計
  • 外部連携機能の設計

システム設計

システム設計は、「サーバーをクラウドで運用するのか?」「オンプレミス型で運用するのか?」などのハード面を設計します。
また、どのようなソフトウェアを使うのかなども設計の中に盛り込むのが一般的です。

レイアウト設計

レイアウト設計は「どのボタンを押すととどの画面に遷移するか?」などの大枠のレイアウトを作成します。優れたUI/UXを生み出すためには、特にこだわりたいポイントです。

帳票管理設計

帳票管理設計は、バックグラウンド業務で使用する帳票類のフォーマットを作成するために必要です。
顧客だけでなく、取引業者と取り交わすものも含まれるため、実際の作成物のイメージを確認しながら設計書を作成します。

データベース設計

データベース設計は「データベースにどのような項目を振り分けるか?」「振り分けるタイミングはいつにするか?」などを決めていきます。
ECサイトでは顧客の個人情報はもちろん、受注のタイミング、発送のタイミングなどを細かく分けて設計する必要があるでしょう。

外部連携機能の設計

外部連携機能の設計は、ECサイトの生産性向上の鍵を握ります。
フルスクラッチで開発されたECサイトは、欲しい機能はほぼすべて盛り込めますが、ひとつのシステムで社内のすべて機能を網羅することはできません。

  • 従業員の管理には労務管理システム
  • 発注には発注管理システム
  • 顧客管理にはCRMシステム

など、基幹システムで導入されている機能は企業によって様々です。外部連携機能の設計では、基幹システムとの連携を前提とした設計をしましょう。

プログラミング

要件定義、システム設計が完了したらいよいよプログラミングの開始です。料理でいうと、具材を切る、煮る、焼くなどの実際の料理の過程に相当します。
まずはワイヤーフレームを用いてホームページの骨組みを作成し、Webページの全体像をつかんでいきます。ECサイトならば、顧客が、

  • どのような経路でWebページに訪問するのか?
  • どのような情報を回遊して、最終的にカートに商品を入れるのか?

などを考慮して、顧客目線での動線を設計しましょう。優れたUI/UXを提供できれば、売上の最大化にも繋がっていきます。
最近では、スマートフォンでのECサイトへのアクセス数も主流になってきているため、モバイルファーストで設計していくことも大切でしょう。

続けて、サイトの見た目を整えていく工程に入ります。使用する言語は、マークアップ言語であるHTML/CSSです。
HTMLはWebページの骨組みを作成できる言語で、CSSはサイトの見た目を整える言語です。
フルスクラッチ開発で開発するならばデザインも競合と差別化したいので、レイアウト設計のイメージに近づけるようにコーディングしていきます。

またWebページに動きをつけて、リッチなページにしたい場合はJavaScriptなどの言語を用います。顧客の動きに沿った導線を構築するためにも、JavaScriptは重要な言語です。
その他、サーバーに必要なデータを送付するための言語であるPHPなど、さまざまなプログラミング言語を用い、要件定義書通りのサイトを作成します。
フルスクラッチ開発は外部システムとの連携を前提とするため、自社で連携が難しいようであれば、専任のエンジニアに依頼する工程も必要になります。

テスト運用

プログラミングでECサイトの大枠が完成したら、テスト運用を行います。大枠が完成したからといって、いきなりサイトをオープンするのはオススメできません。
稼動に関するエラーや、各部門との連動を確認する必要があるからです。
まず、ECサイトに商品を登録します。サイトに商品を登録する際は、自社の誰もが簡単に登録できるような工夫も必要でしょう。
商品の数が多ければ多いほど、登録に時間がかかってしまい、生産性が落ちてしまうためです。なるべくシンプルで使いやすい登録画面の設計を目指しましょう。

次に、実際の顧客の動きに沿って、テスト運用を開始します。
カート周りの使い勝手を確認するのも大切ですが、バックエンド業務との連携を確認するのが特に重要です。
在庫管理システムや発送システムなど、「各システムとのスムーズな連携が行われているか?」を確認しましょう。フレームワークで作成したモバイル版のWebページのチェックも必要です。
パソコン、スマートフォン両方の流入経路の使い勝手もテストしましょう。様々な決済方法を選択できるようにするのも、UI/UXを向上させる手段の一つです。
特に会員登録など煩雑な作業が増えてしまうと、顧客が離脱してしまう原因となるため、効率のよい決済手段の導入も検討すべきでしょう。主な決済手段は

  • クレジットカード
  • コンビニ支払い
  • 銀行振込
  • キャリア決済
  • 商品代引
  • 電子マネー決済
  • ID決済

などです。

特にID決済は普段使っているGoogle、AmazonなどのIDを入力するだけで決済ができるので、急速に広まっています。複数の決済手段を用意し、顧客の入り口から最終的なゴールである決済までのテストを行いましょう。

運用開始

設計されたECサイトが問題なく運用できることを確認したら、本番の運用開始です。

  • リニューアルする前に登録してくれた顧客への周知
  • サイトへの流入増加のための施策

など様々なプロモーションを行い、顧客の獲得を目指しましょう。

大手がフルスクラッチでECサイトを構築する理由

パッケージでもある程度のECサイトは構築できるはずです。なぜ大手は、フルスクラッチでECサイトを構築しているのでしょうか。大きく分けて2つの理由があります。

他の構築手段では要件を満たせない

要件定義の段階で、その他の構築手法の機能を大幅に超えてしまうような場合は、フルスクラッチ開発が適しています。

  • ECサイトに登録する商品が膨大
  • 顧客のアクションを一部ショートカットしたい
  • サイト運営に関わる従業員の負担を減らしたい
  • 優れたUX/UIを追求するために、大幅なカスタマイズが必要

といった課題や要望にも、フルスクラッチ開発であれば柔軟に対応できます。
パッケージ構築は、優れたカスタマイズ性を誇ります。しかしパッケージの機能を大幅に超えてしまうような場合は、フルスクラッチ並の開発期間、費用が必要になるかもしれません。
ベンダーによっては、大規模なカスタマイズには対応できない場合もあるため、独自の機能を追求するにはフルスクラッチ開発を行う必要があるのです。

PDCAサイクルを高速で回せる

社内にマーケティング部門がある場合は、フルスクラッチ開発でECサイトを構築するのが適しています。
どんなに見た目の良いサイトでも、集客がうまく行かないと、ECサイトの存在を顧客に認知してもらえません。
またECサイトへ多くの顧客が流入したとしても、商品が購入(CV)されなければ、実際の売上には繋がりません。
訪問者数と実際に購入した人の割合の指標であるCVR(コンバージョン率)を上げるためには、マーケティング部門と連携して、カート機能の充実などの効果的な施策を次々と打ち出さなくてはなりません。
カート周りのカスタマイズは特に重要で、クリック数が増えるほどCVRの改善が見込めます。
またボタンの配置だけでもクリック率やCVRが改善される可能性があるため、顧客のサイトの滞在時間や、カーソルの動きなどを細かく分析する必要があるのです。

マーケティング部門が提案した改善方法を素早く実行していくには、フルスクラッチ開発で構築されたECサイトが最適と言えるでしょう。パッケージでもある程度はカスタマイズできるかもしれませんが、ECサイトを実装した後にカスタマイズをすると、多くの費用や時間がかかってしまいます。
改善を稟議にあげ、稟議が通ったあとに開発に回した場合、もう既に改善ポイントが古く、使い物にならない可能性も出てくるでしょう。
結果的にフルスクラッチ開発でのカスタマイズのほうが、費用や効果、期間において優位になる可能性があるのです。マーケティング部門と協力してPDCAサイクルを高速で回せるので、大手はフルスクラッチ開発を採用しています。

実際にフルスクラッチ開発を行っている企業の例

フルスクラッチ開発には様々な工程があり、ECサイトの売上を最大化できるのが分かりました。実際フルスクラッチ開発で売上を上げている企業は、どのような思惑でECサイトを構築したのでしょうか。

UNIQLO

アパレル業界のトップランナーであるUNIQLO。アパレルECは、

  • 試着ができない
  • 届いた商品がイメージと違う
  • サイズが合わない

など、通販との相性が良い業種とは言えませんでした。
しかし、現在ではEC化がもっとも進んでいる分野とも言えます。
UNIQLOの大きな特徴といえば、実店舗を数多く抱えている点です。UNIQLOの商品をECサイトで購入した場合、自宅への配送だけでなく、実店舗での受け取りも選べます。いわゆるオムニチャネルを形成しているのです。
実店舗での受け取りは、実店舗に立ち寄って、ついでに買い物をしてもらえるような副次的効果も生み出します。

UNIQLOのサイトでは実際の試着ができない代わりに、豊富なモデルの写真を掲載しています。サイズ感の不安の払拭など、顧客体験の最大化にも成功しているのです。
また顧客は商品のレビューなどもその場で確認できるため、ほかの顧客の口コミを見ながら、品質やサイズ感を判断できるのも嬉しいポイントでしょう。
商品ページから店舗の在庫まで確認でき、自分の好きなチャネルで安心して購入できる仕組みの構築、フルスクラッチでのカスタマイズならではの成功事例と言えます。

ZOZOTOWN

ZOZOTOWNのサイトには、CVR(コンバージョン率)を徹底的に高める施策が施されています。通常アパレルECでアイテムを選ぶ際は、

  1. アイテムを選択する
  2. カラーを選ぶ
  3. サイズを選ぶ
  4. カートに入れる

といった流れで購入に至ります。
しかしZOZOTOWNでは、カラーとサイズを同時に選ぶWebページ構成にしているため、顧客の動線がひとつ短くなっているのです。
カート周りの施策も徹底的に行われています。例えば、チャットボックスの存在が特徴的です。入力画面である一定の時間が過ぎると、スタッフとのチャットができるチャットボックスが出現します。
一定時間入力が進まずに、ページに滞在している場合、顧客が困っている可能性が高いため、店舗で声掛けをするスタッフのように手を差し伸べるのです。
ZOZOTOWNは、顧客目線を追求し、成約率を最大限に高めるECサイトの構築に成功しています。顧客の次の動線を先読みした高度なサイト設計は、フルスクラッチによる開発の成功事例と言えるでしょう。

ヨドバシ.com

ECの巨人であるAmazonに次ぐ国内売上規模を誇るヨドバシ.com。ヨドバシカメラのECサイトであるヨドバシ.comは、リピートユーザーが多いことが特徴です。
他の家電系のECサイトの場合、訪問数から割り出した平均のCVR(コンバージョン率)は3%前後ですが、ヨドバシ.comは8.6%と、高いCVRを実現しています。
ヨドバシ.comも、Webからの自然検索や広告による流入で、ECサイトに訪問する顧客を増やしていますが、ヨドバシカメラはさらに、実店舗を持つ強みを最大限に活かしているのです。ヨドバシカメラは主要都市のターミナル駅に大型店舗を出店しており、質の高いスタッフによる、きめ細やかな接客に定評があります。
特に家電は「実店舗で商品を見てから選びたい」という顧客が多いのですが、いざ店舗に行ってみたら、自分の欲しい商品の在庫がないケースもあるでしょう。そのようなケースにも対応するため、ヨドバシカメラでは、

  • 商品説明は実店舗で行う
  • 発注はECで行ってもらう

ことによって、倉庫から直接、商品を顧客に届ける流れを構築しています。顧客が商品を手にするまでの時間の短縮に成功しています。
実店舗に何度も通うよりも効率的で、顧客満足度の向上につながっています。顧客満足度の向上に、ECサイトの改善は必要不可欠です。
またヨドバシカメラでは、ECサイトの機能拡充のために、システム開発会社との資本業務提携を行っています。これにより、スピード感を持った改善の施策を打ち出せるのです。

無印良品

無印良品は、顧客との繋がりを大切にEC事業を展開しています。無印良品は、MUJI passportというアプリをリリースしています。
ECサイトは顧客の動きを分析できますが、MUJI passportは店頭で使ってもらうことを前提としているアプリです。
アプリからのプッシュ通知により来店促進を行い、「どのような通知を行えば効果的に来店していただけるか?」を分析・改善します。MUJI passportによって、購買傾向や行動傾向を把握して、効果的なマーケティング施策が打てるようになりました。
アプリをスマートフォンにインストールしてもらうのは顧客にとってハードルが高いので、「入力する情報をいかに少なくするか?」に徹底的にこだわり、優れたUI設計に成功しています。
このように、フルスクラッチのECサイト構築を成功させるためには、開発ベンダーとの協力やマーケティング部門の設置など、社内外を横断して売上規模を最大化できる環境の整備が欠かせません。

フルスクラッチでECサイトを構築したあとに注意すべき点

どのような手段を選んだとしても、ECサイトは構築して終わりではありません。ここからは、フルスクラッチでECサイトを構築した際に、特に気をつけるべきポイントをご紹介いたします。

システムのブラックボックス化

ブラックボックスとは、構築されたシステムの仕組みや状態がわからなくなる(わかる人がいなくなる)ことを指します。入力をすれば正しい出力が返ってくるが、その過程がどのようになっているのかわからない状態です。
システム開発は専門性の高いIT人材が行うことが多いのですが、そういった人材は、「部下や同僚にやり方を教えるよりも、自分でやったほうが効率的だ」と判断するケースも珍しくありません。
フルスクラッチ開発では高速でPDCAを回すため、数々のカスタマイズが行われます。
開発のスピード感が重視されるため、じっくり検討を重ね、関係者と協議することはあまり多くありません。その結果、開発担当者だけしかシステムの仕様を把握していないケースも多いのです。

「どの時点で、どこのシステムを変更したか?」
「構築されたシステムが正常に動作しているか?」
がわからない状態にもなりかねません。システム担当者が引き継ぎもなく退職してしまった場合、業務自体の継続が難しくなることもあるでしょう。
万が一中身を把握できない場合は、ブラックボックステストを行い、システムの全容を把握しなくてはなりません。ブラックボックステストには、下記の2つの方式があります。

  • 網羅型テスト
  • 標的型テスト

網羅型テストは、状態遷移図、状態遷移表を使い、システムの全体像を把握するやり方です。標的型テストの場合は、特定の対象に対して予想を立て、効率的に問題点を把握します。
どちらの場合も、テストを行って問題点を把握するのに、膨大な時間と労力を割かなくてはならないため、企業にとっては大変な負担になります。システムのブラックボックス化による損害を避けるには、どうすればよいでしょうか?

業務全体の作業工程表を作成する

ブラックボックス化を防ぐための効率的な手法は、業務の可視化です。「どのように業務が進められているのか?」が、本人以外の第三者にも十分に理解できるような仕組みを作りましょう。
業務の可視化でよく用いられるのが、フローチャート表です。現在の業務の内容を箱の中身に記載し、次の業務を線で結びます。

条件分岐やループ作業の表現も自由にできるため、プログラミングとの相性も良いのです。まずは現在の業務を箱の中にすべて書き出してもらって、それぞれの業務の関連性を線で繋いでいきます。
業務の洗い出しを行っていくことで、

  • 重複している業務
  • 他部署でカバーしている業務

なども見つけられるかもしれません。業務の効率化のためにも、フローチャート表の作成はメリットが多いと言えるでしょう。できあがったフローチャート表はマニュアルにも応用でき、業務のシェアにも役立ちます。
ブラックボックス化の防止には、まずはフローチャート表の作成から始めましょう。

チームを細分化する

1人でシステムを組み上げてしまうと、自分の頭の中だけで完結してしまうため、システムがブラックボックス化しやすい傾向にあります。
またブラックボックス化しなくても、開発者のスキルに依存して、システムが属人化してしまいがちです。担当者が移動したり離職したりしてしまうと、膨大な引き継ぎ業務が発生します。
そのような状況を防ぐためにも、1チーム3名程度の細かいチームを作り、役割を細分化しましょう。チームの細分化で、上位のマネジメントが複雑になり、別の観点からブラックボックス化を招いてしまうこともあるので、マネジメントには十分な注意が必要です。

システムの陳腐化に備える

パッケージでECサイトを構築すると、システムが古くなり陳腐化してしまう現象が起こりえます。フルスクラッチ開発の場合にも同様に、システムが古くなり、ECサイトの稼働が難しくなってしまうケースがあります。
フルスクラッチ開発では、大元のサイトに継ぎ足しでカスタマイズを加えていくため、徐々に時代のトレンドについていけなくなる恐れがあるのです。
5年も経つと、ECサイトに必要な機能や表現(UI)のトレンドも変わってくる可能性が十分にあります。
また今現在はスマートフォンでの閲覧が当たり前ですが、5年後には新たなデバイスが主流になっているかもしれません。
Web業界のトレンドの流れは著しく早いので、フルスクラッチ開発でECサイトを構築する際は、5年を目処にサイトのリニューアルも検討しましょう。

税制上の問題

フルスクラッチで開発されたECサイトは、自社利用目的のソフトウェアに該当します。無形固定資産にあたり、法定耐用年数は5年と定められているため減価償却が可能です。
5年分割して勘定科目に計上できるため、税制上のメリットも期待できます。その他の経費については、

  • サーバー管理費は通信費
  • SEO施策は広告宣伝費

と、科目を分けて計上します。膨大な開発費用がかかるフルスクラッチ開発なので、税制上の問題にも注意を払いましょう。

情報セキュリティ

フルスクラッチは継ぎ足しでカスタマイズしていくため、徐々に保守が難しくなる傾向にあります。
特に注意すべき点は情報セキュリティです。顧客のカード情報や個人情報が万が一にも漏れてしまうと、企業にとって深刻な問題になりかねません。
どんなに大手の企業で、最新の注意を払っていたとしても、個人情報がもれてしまうリスクを完全に無くすことはできません。
フルスクラッチ開発では、売上を最大化できる攻めの部分に注目しがちです。
しかし守りの部分である保守業務を継続的に行える体制作りにも、十分に気を配りましょう。

まとめ:売上の最大化を望むならフルスクラッチ開発がオススメ

フルスクラッチは、カスタマイズの自由度の高さが魅力で、売上の最大化を望める優れた開発手法です。ECサイトの売上規模を考慮し、フルスクラッチ開発を選ぶべきかを検討しましょう。
自社での内製化が難しい場合や費用面で不安がある場合は、ラボ型開発などにより海外の優秀なIT人材を活用するのも有効です。

フルスクラッチのECシステム開発のご相談はWakka.incまで

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この記事を書いた人
安藤 大海

学生時代にWebサイトを自作したことがきっかけでWebの世界に。制作会社でデザイン、WordPressテーマ開発の実務を経て、テクニカル・ディレクターとして大規模サイト構築のディレクションを経験。2021年からWakka Inc.の日本拠点でWebディレクターとして参画。最近はブロックエディタになったWordPressをもう一度、勉強しています。

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