クラウドネイティブとは?クラウドファーストとの違い、開発手法などを解説


こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
現代のIT業界では、クラウドネイティブという用語を頻繁に耳にするようになりました。
しかし、その正確な意味や「クラウドで開発すること」との違い、ビジネスにもたらす価値については、よく分からないと感じている方も多いのではないでしょうか。
- 開発のスピードがなかなか上がらない
- サービスへの急なアクセス増加にインフラが対応できない
- 機能を追加するたびに、予期せぬ不具合が起きてしまう
Webアプリケーション開発やインフラ運用の場面でこのような課題に直面しているなら、その解決策は「クラウドネイティブ」にあるかもしれません。
本記事では、クラウドネイティブの基本概念から、それを支える主要技術・具体的なビジネスメリット・国内外の成功事例までを解説します。
クラウドネイティブの全体像を把握し、自社の課題解決にお役立てください。
システム開発を検討されている方に向けてすぐに使える『RFP(提案依頼書)テンプレート』をご用意!
編集しやすいパワーポイント形式のテンプレートなので、項目を埋めるだけで簡単にRFPが作成できます。

クラウドネイティブとは

クラウドネイティブとは、クラウドの持つ能力(柔軟性・拡張性・回復性など)を最大限に引き出すことを前提として、アプリケーションを設計・開発・運用していくという思想そのものを指します。
単にアプリケーションをクラウド上で動かすことにとどまらず、より広い視点を持つ言葉です。
本章では、クラウドネイティブに関する基本的な知識についてご説明します。
また、クラウドネイティブの定義に加え、クラウドファーストとの違いについても解説します。
CNCFの定義
クラウドネイティブ技術の標準化と推進を行う中心的な団体であるCNCF(Cloud Native Computing Foundation)は、クラウドネイティブを次のように定義しています。
クラウドネイティブ技術は、パブリッククラウド・プライベートクラウド・ハイブリッドクラウドなどの近代的で動的な環境において、スケーラブルなアプリケーションを開発・実行するための能力を組織にもたらします。
このアプローチの代表例に、コンテナ・サービスメッシュ・マイクロサービス・イミュータブルインフラストラクチャ・宣言型APIが挙げられます。参照:CNCF公式サイト
つまり、「クラウドの利点をフル活用して、変化に強く、スケールしやすいアプリケーションを作るための技術や手法の集まり」がクラウドネイティブです。
これらの技術要素を組み合わせることで、迅速な開発とデプロイ、そして安定したサービス運用が可能になります。
クラウドネイティブ開発は、ビジネスの俊敏性やスケーラビリティが求められる現代において、さまざまな場面で活用されています。
例えば、急成長中のスタートアップ企業が、市場の変化に迅速に対応しながらサービスを拡張する必要がある場合、クラウドネイティブ開発は有効な手段です。
また、大企業がレガシーシステムを刷新し、最新のテクノロジーを活用して顧客体験を向上させたい場合にも、クラウドネイティブなアプローチが採用されています。
さらに、システムのリソースを柔軟に調整する必要がある場合など、一時的な負荷変動に対応するためにクラウドネイティブ開発が活用されるケースも少なくありません。
クラウドファーストとの違い
クラウドネイティブとしばしば混同される言葉に「クラウドファースト」があります。
両者の概念は似ていますが、そのアプローチと目指すゴールが大きく異なる点に注意しましょう。
クラウドファーストは、システムを構築する際に「まずクラウドの利用を検討すること」です。
一方、クラウドネイティブは、クラウドでの稼働を前提にシステム全体を設計・構築するアプローチです。
以下の表で、両者の違いを整理してみましょう。
項目 | クラウドファースト | クラウドネイティブ |
---|---|---|
アプローチ | 既存のシステムをクラウドに移行(リフト&シフト)することを重視する。 | クラウドの機能を最大限に活用することを前提に設計・開発する。 |
主な目的 | オンプレミスからの脱却・サーバー管理コストの削減。 | サービスの迅速な開発・市場投入までの時間短縮・高い可用性と拡張性の実現。 |
アーキテクチャ | 既存のモノリシックな構成のままクラウドで動かすことが多い。 | マイクロサービス・コンテナなど、クラウドに最適化された構成を積極的に採用する。 |
思考の段階 | 手段としてクラウドを選ぶ。 | 目的を達成するためにクラウドを前提とする。 |
つまり、クラウドファーストはインフラの設置場所を変えることに主眼を置いた取り組みです。
一方、クラウドネイティブはアプリケーションのあり方そのものを変革し、ビジネスの成長を加速させることを目指す、より先進的な概念といえます。
クラウドネイティブの開発事例

本章では、クラウドネイティブの代表的な開発事例をいくつかご紹介します。
- ECサイト
- SaaSプロダクト
- 動画・音楽配信
- 基幹システムの開発
- AIの開発
- IoTの開発
- ビッグデータの分析
クラウドネイティブは、今や特定の業界だけでなく、さまざまなビジネスシーンでその価値を発揮している技術です。
理論だけでなく、実際にどのような場面で活用されているかを知ることで、自社への導入イメージがより具体的になります。
ECサイト
ECサイトのビジネスは、セールやキャンペーンといった特定の期間にアクセスが集中する特性があります。
クラウドネイティブの代表的な利点である自動スケーリング(オートスケーリング)は、こうした急激なトラフィックの増減に真価を発揮します。
例えば、大規模セール時にアクセスが殺到すると、システムは自動でサーバーリソース(コンテナ数)を増強し、サイトダウンや表示遅延を防ぎます。
ピークが過ぎればリソースは自動で縮小されるため、インフラコストの最適化と機会損失の防止を両立できます。
また、マイクロサービスアーキテクチャの採用は、新機能の迅速なリリースを可能にします。
決済、在庫管理、会員情報といった各機能を独立したサービスとして開発・管理するため、「新しい決済方法を追加する」といった改修を、サイト全体を停止することなく、該当機能のみに絞って安全かつ迅速に実装できます。
SaaSプロダクト
多くのSaaSプロダクトは、複数の顧客(テナント)が単一のシステムを共有するマルチテナント方式で提供されます。
クラウドネイティブは、この環境で各テナントに安定したサービスを提供しつつ、柔軟な機能提供を実現します。
コンテナ技術により、テナントごとにリソースを論理的に分離・確保することが可能です。
これにより、ある特定のテナントでアクセスが急増したり、負荷の高い処理が実行されたりしても、他のテナントのパフォーマンスに影響が及ぶのを防ぎ、全顧客に安定したサービスレベルを保証します。
さらに、機能単位でサービスが分割されているため、顧客ごとの柔軟な機能カスタマイズも容易になります。
例えば、「エンタープライズプランの顧客にのみ、特定の分析機能を先行リリースする」といった対応が、他のプランの顧客に影響を与えることなくスムーズに行えます。
動画・音楽配信
動画や音楽のストリーミングサービスは、常に大量のトラフィックを安定して処理する能力が求められます。
クラウドネイティブアーキテクチャは、このような大規模配信基盤の構築に不可欠です。
サービスを機能ごとに分割することで、認証、レコメンド、配信といった各処理を独立してスケールさせることができ、リソースを効率的に活用しながら膨大なリクエストに対応します。
特に重要なのは、グローバルなユーザーへの低遅延でのコンテンツ配信です。
クラウドネイティブはCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)との親和性が高く、世界中に配置されたエッジサーバーに動画や音楽のデータをキャッシュさせることが容易になります。
ユーザーがコンテンツを再生すると、物理的に最も近いサーバーからデータが配信されるため、通信遅延が大幅に短縮され、快適な視聴体験を提供できます。
基幹システムの開発
クラウドネイティブ開発は、基幹システムの開発にも役立ちます。
従来のオンプレミス環境で構築されてきた生産管理・在庫管理・販売管理といった企業の基幹業務システムも、クラウドネイティブ化の波に乗り始めています。
これは、レガシーシステムが抱える硬直性や拡張性の低さといった課題を、クラウドネイティブのアプローチによって解決するためです。
具体的には、業務プロセスごとにシステムをマイクロサービス化することが挙げられます。
この手法を用いることで、特定の業務要件の変更が他のシステムに影響を与えにくくなり、ビジネス環境の急激な変化にも柔軟に対応できる基幹システムの構築が可能です。
クラウドネイティブ化は、単にシステムをクラウドに移行するだけでなく、開発・運用プロセス全体を刷新し、ビジネスの俊敏性と競争力を高めるための戦略的な選択肢です。
変化の激しい現代において、クラウドネイティブな基幹システムは、企業が持続的に成長するための重要な基盤となります。
AIの開発
クラウドネイティブは、機械学習モデルの開発やAIサービス提供において不可欠な役割を果たします。
AIモデルの学習には、大量のデータ処理と複雑な計算が必要ですが、クラウドが提供する膨大な計算リソースがあれば、スムーズな実行が可能です。
さらに、開発されたAIモデルをAPIとしてマイクロサービス化することで、ほかのアプリケーションからの利用が容易になります。
例えば、画像認識AIをマイクロサービスとして構築すれば、さまざまなアプリケーションから画像データを送信し、認識結果をリアルタイムで受け取れます。
AI機能を迅速かつ柔軟に既存のシステムに組み込めるので、AI技術の普及を加速させるうえでもクラウドネイティブは不可欠です。
クラウドネイティブ開発によるアプローチは、AI開発のスピードと柔軟性を向上させ、革新的なAIサービスの創出を促進します。
IoTの開発
クラウドネイティブ技術は、無数のデバイスからデータを収集・処理・分析するIoT(Internet of Things)プラットフォームの構築に最適です。
IoT環境では、大量のデバイスからの同時接続や膨大なデータストリームをリアルタイムに処理する必要があり、高いスケーラビリティが不可欠となります。
クラウドネイティブアーキテクチャを採用することで、需要の変化に応じてリソースを自動的に拡張・縮小させることが可能となり、コストを最適化しながら、安定したデータ収集基盤を運用できます。
例えば、アクセスが集中する時間帯には自動的にサーバーの数を増やし、ピークを過ぎればリソースを解放することで、効率的な運用が可能です。
また、コンテナ技術やマイクロサービスアーキテクチャを活用することで、個々のサービスを独立して開発、デプロイ、スケールできるようになり、システム全体の柔軟性と可用性を向上させられます。
障害発生時の影響範囲を局所化し、迅速な復旧を可能にすることも、クラウドネイティブなIoTプラットフォームの大きなメリットです。
クラウドネイティブ開発は、IoTの可能性を最大限に引き出すための強力な基盤となります。
ビッグデータの分析
ビッグデータ分析基盤におけるクラウドネイティブ開発の活用は、ビジネスの意思決定を大きく変革します。
クラウドが提供する分散処理サービスや、スケーラブルなデータベースを活用することで、テラバイト・ペタバイト級の巨大なデータの効率的な処理・分析が可能です。
これにより、従来オンプレミス環境では困難だった大規模な市場分析や顧客行動分析が実現し、より精度の高いビジネス戦略を策定できます。
さらに、分析ロジックをコンテナ化することで、分析環境の再現性を高め、チーム内での共有や共同作業を円滑に進められる点も魅力です。
異なる環境間での分析結果の差異を減らし、属人化を防ぐ効果も期待できます。
例えば、データサイエンティストが開発した分析モデルを、開発環境から本番環境へ、又は異なるチーム間で容易に移行・共有できます。
クラウドネイティブな分析基盤は、ビジネスにおけるデータ活用を加速させるための強力な武器です。
システム開発を検討されている方に向けてすぐに使える『RFP(提案依頼書)テンプレート』をご用意!
編集しやすいパワーポイント形式のテンプレートなので、項目を埋めるだけで簡単にRFPが作成できます。

クラウドネイティブの導入による5つのメリット

本章では、クラウドネイティブがもたらす5つの主要なメリットを紹介します。
- 開発サイクルの高速化と納期の短縮
- 柔軟なリソース拡張とコストの最適化
- 無停止メンテナンスによるサービス可用性の向上
- 障害時の影響範囲の極小化
- 特定ベンダーへの依存からの脱却
クラウドネイティブ開発は、単に技術的に新しいだけでなく、ビジネスに具体的かつ強力なメリットをもたらす手法です。
開発効率の向上からコスト削減、サービスの信頼性向上まで、その効果は多岐にわたります。
開発サイクルの高速化と納期の短縮
開発サイクルの高速化や、それに伴う納期の短縮は、クラウドネイティブ開発において期待できるメリットの一つです。
クラウドネイティブ開発は、DevOpsやアジャイルといった開発手法との高い親和性を持っています。
CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)のパイプラインを整備することで、ソースコードの変更からテスト、デプロイまでの一連のプロセスが自動化されます。
その結果、開発チームは煩雑な手作業から解放され、より迅速かつ頻繁に新機能や修正をリリースすることが可能です。
柔軟なリソース拡張とコストの最適化
クラウドネイティブ開発は柔軟なリソース拡張とコストの最適化にも役立つものです。
クラウドネイティブアーキテクチャは、クラウドが持つ伸縮自在なリソースを最大限に活用します。
例えば自動スケーリング機能を利用することで、ECサイトのセール時などアクセスが急増した際には自動的にサーバー能力を増強し、アクセスが落ち着いた際には元の状態に戻すことができます。
これにより、ユーザーは快適なレスポンスを維持でき、企業側は機会損失を防ぎながら、平常時の余分なインフラコスト削減が可能です。
クラウドネイティブ開発でサービスを構築することで、状況に応じて柔軟にリソースを運用でき、無駄なコストを抑えることが可能です。
コストの削減は収益の最大化にもつながります。
無停止メンテナンスによるサービス可用性の向上
クラウドネイティブを導入すれば、無停止メンテナンスを実現し、サービス可用性のさらなる向上が可能です。
従来のモノリシックなシステムでは、機能追加やメンテナンスのためにサービス全体を計画的に停止する必要がありました。
しかし、クラウドネイティブのマイクロサービスアーキテクチャでは、サービスが機能ごとに独立しているため、特定の機能だけをアップデートできます。
また、ローリングアップデートといった手法を用いれば、ユーザーがサービスを利用している最中でも、裏側で新しいバージョンのアプリケーションに少しずつ切り替えていくことが可能です。
無停止メンテナンスはユーザーエクスペリエンスの向上にも有効です。
実現すれば、メンテナンス時にユーザーが影響を受けるリスクを最大限削減できます。
障害時の影響範囲の極小化
クラウドネイティブは、障害時の影響範囲を極小化できるのも魅力です。
システムに障害はつきもので、その影響をいかに小さく抑えるかがビジネスの継続性を左右します。
マイクロサービスアーキテクチャは、各サービスが独立しているため、万が一あるサービスに障害が発生しても、その影響がほかのサービスに波及しにくい構造です。
さらに、サーキットブレーカーパターンのような仕組みを導入すれば、障害を検知したサービスへのリクエストを自動的に遮断し、連鎖的なシステムダウンを防止できます。
特定ベンダーへの依存からの脱却
特定ベンダーへの依存から脱却できるのも、クラウドネイティブのメリットです。
DockerやKubernetesといったクラウドネイティブの中核技術は、オープンソースソフトウェア(OSS)として開発されており、特定のベンダーに依存しない標準技術です。
これらの技術をベースにシステムを構築することで、アプリケーションのポータビリティが高まります。
これにより、将来的に「AWSからGCPへ移行したい」あるいは「複数のクラウドを適材適所で使い分けたい」といった戦略的な判断を、より少ないリスクとコストで実現できます。
特定ベンダーへの依存からの脱却は、長期的な視点で技術選択の自由度を確保し、コスト交渉力を高めるうえでも非常に重要なメリットです。
クラウドネイティブを支える5つの主要技術要素

クラウドネイティブは、以下の技術要素の組み合わせによって成り立っているものです。
- マイクロサービス
- コンテナ(Docker)
- 宣言型API
- サービスメッシュ(Istio)
- イミュータブルインフラストラクチャ
上記の技術が互いに連携し合うことで、前述したようなメリットが実現されます。
本章では、クラウドネイティブを支える5つの柱となる技術について、それぞれの役割と関係性を解説します。
マイクロサービス
マイクロサービスは、アプリケーションを機能単位で独立した小さなサービスに分割するアーキテクチャ思想です。
大規模なアプリケーションを、例えばECサイトであれば「商品カタログ」「注文管理」「決済」「ユーザー認証」といった、それぞれが独立して動作するサービス群として構築します。
各サービスは独立したチームによって開発・デプロイ・拡張が可能になるため、開発のスピードが飛躍的に向上します。
また、一つのサービスに問題が発生した場合でも、他のサービスへの影響を最小限に抑えられるので、システム全体の安定性を高められる点もメリットです。
技術スタックもサービスごとに最適化できるため、柔軟性の高い開発体制を実現できます。
コンテナ(Docker)
コンテナは、アプリケーション本体と、その実行に必要なライブラリや設定ファイルなどを一つのパッケージにまとめる技術です。
この分野でデファクトスタンダードとなっているのが「Docker」です。
Dockerはコンテナ化することにより、「開発者のPCでは動いたのに、本番サーバーでは動かない」といった環境差異に起因する問題を防止できます。
コンテナは非常に軽量で、どこでも同じように動作するため、アプリケーションのポータビリティ(可搬性)を劇的に向上させます。
宣言型API
クラウドネイティブにおける宣言型APIとは、システムのあるべき状態を宣言的に記述することで、その状態を維持するための具体的な操作をシステム自身に委ねる仕組みです。
例えば、Kubernetesでは、「Webアプリケーションのコンテナを常に3つ稼働させる」という状態を宣言するだけで、自動的にコンテナのデプロイ・スケーリング・障害からの復旧を行います。
人は具体的な手順を指示するのではなく、目的とする状態を記述するだけで完了します。
複雑なシステムの管理を効率化できるので、運用コストの削減が可能です。
宣言的な記述によって、システムは状態を監視するだけでなく、変化に応じて自動的に調整するため、常に望ましい状態を保持できます。
サービスメッシュ
サービスメッシュもクラウドネイティブにおける重要な技術要素です。
マイクロサービスアーキテクチャでは、多数のサービスが互いにAPIで通信し合います。
この通信網が複雑になると、「どのサービスがどのサービスを呼び出しているのか」「どこで通信が遅延しているのか」といったことの把握が難しくなります。
サービスメッシュは、このマイクロサービス間の通信を制御し、可視化するためのインフラ層です。
代表的なツールである「Istio」を導入すると、アプリケーションコードを変更することなく、通信の暗号化・アクセス制御・詳細なトラフィック監視といった機能を追加できます。
イミュータブルインフラストラクチャ
イミュータブルインフラストラクチャは、一度構築したサーバーなどのインフラ環境は、後から設定変更を加えるのではなく、変更が必要になったら古い環境を破棄して、新しい設定の環境を丸ごと再構築するという運用思想です。
イミュータブル(Immutable)とは「不変」を意味します。
これにより、環境ごとの設定のズレ(環境ドリフト)を防ぎ、常にクリーンで予測可能な状態を保持できます。
クラウドネイティブのアプリケーション開発

クラウドネイティブな環境でのアプリケーション開発における重要な考え方として、CI/CD・DevOps・アジャイル開発・サーバーレスが挙げられます。
それぞれの概念の詳細は以下の通りです。
概念 | 説明 |
---|---|
CI/CD | 継続的インテグレーションと継続的デリバリーの略で、アプリケーションの変更を自動でテストし、リリースする手法です。 頻繁な変更を安全に行うために重要です。 |
DevOps | 開発チームと運用チームが協調してシステム開発を行う概念で、ビジネス価値をより迅速かつ確実にユーザーに届けます。 組織文化の改善を通じて、両チームが共通の目標に向かって協力することが重要です。 |
アジャイル開発 | 短期間の開発を繰り返しながらシステムを改善する手法で、要件変更に柔軟に対応できます。 |
サーバーレス | サーバーの運用を気にせずリソースを利用できるサービス形態で、開発者はインフラの管理から解放され、アプリケーション開発に集中できます。 また、コスト削減にもつながります。 |
クラウドネイティブ開発の進め方
クラウドネイティブの導入ロードマップは複数のステップで構成され、一般的にコンテナ化・CI/CD・オーケストレーションとアプリケーションの定義などが初期段階の重要な要素とされています。
コンテナ化はクラウドネイティブの基盤となる技術であり、Dockerコンテナなどでアプリケーションをコンテナ化するステップです。
CI/CDはソースコードの統合・テスト・ビルド・リリースを自動化する仕組みで、ビジネス環境への迅速な対応に不可欠です。
オーケストレーションは、Kubernetesなどのツールでコンテナの管理や設定を自動化し、アプリケーションの安定稼働を支援します。
なお、クラウドネイティブの実現には技術導入だけでなく、組織文化の変革も重要です。
従来の慎重な承認プロセスから、失敗を恐れず挑戦する文化へと転換し、開発チームと運用チームの協調や自律的なチーム構築が求められます。
システムの改修とリリースの頻度を高めるために、CI/CD・DevOps・アジャイル開発手法を導入し、クラウドネイティブが根付きやすい組織文化を醸成する必要があります。
クラウドネイティブ開発の3つの課題
クラウドネイティブ開発は多くのメリットをもたらす一方で、以下のような課題に注意が必要です。
- 高度なスキルセットとエンジニア不足
- 複雑化するセキュリティとコスト管理
- 既存のシステムとの統合と移行の準備
上記の課題を事前に理解し、対策を検討しておくことが、プロジェクトを成功に導くための重要な鍵となります。
高度なスキルセットとエンジニア不足
高度なスキルセットとエンジニア不足は、クラウドネイティブ開発を成功させるうえで無視できない課題です。
クラウドネイティブ開発の成功には、コンテナ・マイクロサービス・CI/CDなど多岐にわたる技術スタックへの深い理解が不可欠です。
しかし、これらの高度なスキルを持つエンジニアは不足しており、企業間の採用競争が激化しています。
人材確保のため、自社内での体系的な研修プログラム導入や、外部専門家による勉強会の開催が効果的です。
また、外部パートナーとの協業も有効な手段です。
クラウドネイティブ技術は常に進化しており、継続的な学習が欠かせません。
組織として資格取得支援制度を設けたり、サンドボックス環境を提供したりするなど、エンジニアがスキルをアップデートできる文化を醸成しましょう。
特に、マイクロサービスの設計原則や分散システムのトレードオフを理解するアーキテクト層の人材の確保・育成は、プロジェクトの成否を左右する長期的な課題です。
複雑化するセキュリティとコスト管理
クラウドネイティブ開発では、アプリケーションやプロダクトのセキュリティが複雑化する傾向があるため、適切なコスト管理が重要です。
システムが多数のマイクロサービスに分割され、動的にコンテナが生成・破棄されるクラウドネイティブ環境は、従来のセキュリティ対策だけでは不十分です。
コンテナイメージ自体の脆弱性や、サービス間の通信経路の保護など、新たな攻撃対象領域(アタックサーフェス)が生まれます。
これには、コンテナイメージの脆弱性を継続的にスキャンしたり、ネットワークポリシーを厳格に設定したりといった対策が必要です。
また、利用した分だけ費用が発生する従量課金モデルは、管理を怠ると意図せずコストが高騰するリスクを孕んでいます。
コスト可視化ツールを活用し、定期的に利用状況をレビューする体制を整えることが重要です。
既存のシステムとの統合と移行の準備
クラウドネイティブで開発したシステムを導入する際は、既存のシステムとの統合に注意しましょう。
多くの企業では、すべてのシステムを一気にクラウドネイティブ化するのではなく、既存のレガシーシステムと共存させながら段階的に移行を進めることになります。
この際、新旧システム間のデータ連携や認証・認可の統合が大きな技術的課題となります。
API Gatewayなどを活用し、システム間のインターフェースを整理することで、スムーズな連携を実現しましょう。
また、ストラングラーフィグ(絞め殺しの木)パターンのように、既存システムの機能を段階的にマイクロサービスへ置き換える戦略は、リスクを軽減し、安定的な移行を可能にします。
移行にあたっては、既存システムへの影響を最小限に抑えるため、綿密な計画とテストは欠かせません。
データの整合性を保ちながら、段階的なリリースを繰り返すことで、ユーザーへの影響を最小限に抑えられます。
さらに、移行後の運用体制も考慮し、監視体制やトラブルシューティング手順などを整備しておくことが重要です。
クラウドネイティブの導入で効率的な開発を実現しよう

本記事では、クラウドネイティブの基本概念や主要技術・ビジネスにもたらすメリット・乗り越えるべき課題までを網羅的に解説しました。
クラウドネイティブとは、単なる技術トレンドではなく、変化の激しい現代のビジネス環境で競争力を維持し、成長を加速させるための強力な戦略的アプローチです。
開発サイクルの高速化・コストの最適化・障害に強い安定したサービス提供は、あらゆる企業にとって喫緊の課題であり、クラウドネイティブ開発はそれらに対する明確な答えを提示してくれます。
しかし、クラウドネイティブ開発は高度な技術の習得や組織文化の変革など、乗り越えるべきハードルも存在します。
本記事で得た知識をもとに、まずは自社のシステムが抱える課題を洗い出し、クラウドネイティブのアプローチがどのように貢献できるかを検討することから始めていただければ幸いです。
システム開発を検討されている方に向けてすぐに使える『RFP(提案依頼書)テンプレート』をご用意!
編集しやすいパワーポイント形式のテンプレートなので、項目を埋めるだけで簡単にRFPが作成できます。

