AIシステム特許を取得するには?特許審査事例や出願状況なども解説

2024.04.08
DX・システム開発
Wakka Inc. メディア編集部
AIシステム特許を取得するには?特許審査事例や出願状況なども解説
SHARE ON
  • FaceBook
  • Twitter
  • LINE
  • Note

こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。

AIシステムを開発した企業にとって、特許の取得は新たな課題のひとつです。
AI特許を取得すれば、他社との競合で優位に立てるうえに、自社で開発した技術を保護できるなど、様々なメリットが期待できます。

しかし、日本でAI特許の取得に積極的な企業は少なく、申請のプロセスや審査基準もあまり知られていません。
そのため、AI特許の取得を検討しても、情報が集まらないと感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、AIシステムの特許の取り方や審査基準などについて解説します。
近年の出願状況や、特許審査事例も解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

AIシステム特許の現状

まずは、AIシステムに関連する特許の現状について確認しましょう。
加えて、AI特許の概要や、出願状況についても解説します。

AIシステム特許とは

そもそも特許とは、新規性、進歩性、実用性を持つ発明に対して、国から一定期間(通常は20年間)、その発明を独占的に使用する権利を与えられる制度です。
AIシステム特許(AI特許)の場合、AIを対象とした特許を指します。

AIを対象とした特許には、AIそれ自体の技術に対する特許と、特定の目的を達成するために活用されるシステムに対する特許の2種類があります。

なお、AIに関する発明も大きく分けて2種類あります。
機械学習や深層学習のような特徴的なアルゴリズムを搭載したAIの発明は「AIコア発明」、AIを利用したシステムに関する発明は「AI関連発明」です。

AIシステムを巡る状況

昨今、AIやAIシステムの開発は活発化しています。

2000年半ばから始まった第3次AIブームにより、ニューラルネットワークによる機械学習技術が発展し、AIに関連する技術は飛躍的に向上しました。
近年では、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、企業・個人を問わず、様々な場面でAIが使われています。

第3次AIブームの影響は今後も続くと予測されており、AIを活用したシステムはもちろん、より高い学習能力を持ったAIが続々と登場するでしょう。
同時に、AIに注力する企業も増加しており、世界的な大企業もAIへの積極的な投資を実施しています。

AI関連発明の出願状況

第3次AIブームの影響もあり、昨今では特許庁もAI関連発明に注目するようになりました。
その結果、AI関連発明の特許出願が増加しており、特許庁も積極的に対応する姿勢を見せています。

以下の表を見てみましょう。

出典:AI 関連発明の出願状況調査 報告書|特許庁

2013年ごろまで出願数は増減を繰り返していましたが、2014年以降からは右肩上がりで増加していることがわかります。
特に第3次AIブームが本格化する2016年以降は、年間で出願数が1000件以上増加する年も見られるようになりました。

日本のAI特許の出願数は、中国やアメリカに次いで世界3位を記録しており、特許を取得する流れが活発化しています。

AI特許の進め方と審査基準

AI特許を取得するには、特許庁が提示する各種審査基準を理解しなければなりません
本章では各審査基準を元に、一般的なAI特許の取得に向けた進め方について解説します。

以下の概要を理解してから、AIに強い弁理士に相談することで、効率よく特許出願に進めることができますのでぜひ参考にしてみてください。

発明該当性

発明該当性とは、出願された技術が、特許による保護の対象とすべきかどうかを判断する審査基準です。
発明該当性においては、当該技術が以下の要件を満たしているかが確認されます。

  • 「発明」であること
  • 「産業上利用することができる発明」であること

参照:特許・実用新案審査基準第III部 第1章|特許庁

つまり、発明該当性は「当該技術が発明に該当し、なおかつ産業上利用できるもの」であるかを確かめる審査基準と捉えられます

なお、特許法における発明の定義のとおりです。

この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

特許法第二条

AIの場合、アルゴリズムという技術的思想に基づいて性能や機能が決定されるため、自然法則を利用しているイメージがない印象があります。
しかし、AIの場合、自然法則を利用している機器等の制御、あるいは制御に伴う処理にAIを利用していることが重要なポイントです。

つまり、自然法則を利用している機器の制御・制御に伴う処理に利用されていれば、AIは「自然法則を利用した技術的思想」と見なされます。

参照:漫画審査基準~AI・IoT編~発明該当性|特許庁

明確性要件

明確性要件とは、発明の範囲性が明確であることが理解できるように記載されているかを判断する審査基準です。
明確性要件は、特許法において以下のように記載されています。

願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

引用:特許法第36条2項|特許庁

出願の際、発明の範囲や発明そのものが不明確な記載をしていると、明確性要件を違反したと見なされます。
明確性要件を達成するには、以下の3点の内、いずれかを明確に意味するように記載しなければなりません。

  • プログラム自体
  • プログラムが記録された記録媒体
  • プログラムが読み込まれたコンピューターシステムなどのプログラムが読み込まれたシステム

参照:AI関連技術に関する事例の追加について|特許庁

なお、明確性要件において、必ずしも「プログラム」を使う必要はありません。
「AI」のようなプログラム以外の用語を使用していても、発明それ自体がプログラムであることが明確な記載なら、明確性要件をクリアできる可能性が高まります。

新規性

新規性とは、文字通り当該技術が「従来技術とは異なる新しいもの」であるかを判断する要件です。
新規性は特許法にある第29条に基づいて判断されます。

 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

引用:特許法第二十九条第一項

AIの場合、インターネットや検索サーバーなどのような従来技術に付随するものが多いため、特許を出願する際に広い範囲で記載すると新規性を否定されるリスクが高まります。
そのため、出願する際は、新規性が認められる部分を具体的に特定できるように記載しなければなりません。

進歩性

進歩性とは、特許法第29条2項に基づいて判断される審査基準です。

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

引用:特許法第二十九条第二項

つまり、当業者が出願した技術に容易に到達できるものであれば、進歩性は認められません。
従来の高度な装置の使用を前提にした技術や、先行技術の寄せ集めでも、進歩性が否定される可能性が高くなります。

記載要件

特許を取得する際は、記載要件にも注意を払う必要があります。
AIシステムの場合、入力されるデータと出力されるデータの相関関係が重要です。

AIシステムにおけるデータの相関関係は、性能評価結果や統計情報などを利用して裏付けましょう。
技術的な常識から逸脱したものであっても、データの相関関係が明示されていれば特許を取得できる確率が向上します。

なお、出願時に、相関関係の裏付けがない範囲まで特許技術として記載すると、記載要件違反と見なされやすくなります。

AIシステム特許審査事例3選

本章では、実際にあったAIシステム特許の審査事例を3つ紹介します。
それぞれの請求項に与えられた評価についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

リンゴの糖度データ及びリンゴの糖度データの予測方法

この発明は、リンゴの糖度データを携帯型のリンゴ用糖度センサにて計測するだけでなく、AIを活用して様々なデータを分析し、出荷時のリンゴの糖度を予測するシステムです。

当該発明においては、3点の請求項に以下のような評価が下されました。

請求項1携帯型のリンゴ用糖度センサにより計測された、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データ発明に該当しない
請求項2サーバの受信部によって受信され、記憶部に記憶された、請求項1に記載のリンゴの糖度データ発明に該当しない
請求項3複数の工程を含むリンゴの糖度データの予測方法発明に該当する
参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

請求項1・請求項2は、糖度データの提示手段や提示方法について何ら特定がされていないうえに、情報の内容が特徴的であるだけと見なされています。
そのため、いずれの請求項も単なる情報の提示として、発明に該当しないと評価されました。

対して、請求項3はリンゴに関わる化学的・生物学的性質などの技術的性質に基づいて具体的な処理を行うもの判断されました。
その結果、自然法則を利用した技術的思想として、発明に該当すると評価されています。

参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

音声対話システムの対話シナリオのデータ構造

当該発明は、対話型人工知能の開発に利用する対話シナリオのデータ構造に関するものです。
当該発明においては、請求項が発明が以下のように評価されました。

請求項1クライアント装置とサーバからなる音声対話システムで用いられる対話シナリオのデータ構造発明に該当する
参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

当該発明の請求項は、音声対話システムによる一連の情報処理がソフトウェア資源・ハードウェア資源の協働による具体的な手段によるものと判断されました。
つまり、当該発明は自然法則を利用している機器等の制御、あるいは制御に伴う処理にAIを利用していると認識できるものです。

よって、発明に該当すると評価されています。

参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル

当該発明は、既存のテキストデータにある特定の単語の出現頻度などに基づき、宿泊施設の評判を出力するための学習済みモデルです。
請求項に対し、当該発明は以下のように評価が下されました。

請求項1テキストデータに基づき、宿泊施設の評判を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデル発明に該当する
参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

当該発明は使用している用語こそ「学習済みモデル」ですが、実態はハードウェアであるコンピュータを機能させるためのソフトウェア、つまりプログラムであることが明確です。
また、ソフトウェア資源とハードウェア資源の協働により、目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を構築するもであると判断されました。

そのため、発明に該当すると評価されました。

参照:附属書A 発明該当性及び産業上利用可能性に関する事例集|特許庁

審査基準や特許審査事例などを学んでAIシステム特許の取得を目指そう

昨今のAIブームもあり、日本でもAIシステム特許の取得を目指す企業が増加しています。
AIシステムの開発に携わる企業にとって、特許の取得は重大な課題になるでしょう。

しかし、AIシステム特許は特許法に基づいて設定された審査基準を理解する必要があります。
発明該当性や記載要件など、それぞれの審査基準を理解する際は、特許審査事例を参照しましょう。

実際にあった事例を参照すれば、審査基準をクリアするコツを学べます。

【あわせて読みたい】おすすめ関連資料

すぐに使えるRFPテンプレート|システム開発用
>システム開発のRFPについて、情報を埋めるだけで簡単に作成ができるテンプレートです。

すぐに使えるRFPテンプレート|サイトリニューアル用
>サイトリニューアルの際に、テンプレートの情報を埋めるだけで簡単にRFPが作成できます。

DX進め方ガイドブック
>DXプロジェクトを検討している担当者の方に向けて、失敗しない社内体制の構築から開発リソース確保までを網羅して解説しています。

この記事を書いた人
Wakka Inc. メディア編集部
  • ホーム
  • ブログ
  • AIシステム特許を取得するには?特許審査事例や出願状況なども解説