【依頼企業向け】SESとSIerの違いや特徴を徹底解説

最終更新日:2024.11.19
DX・システム開発
中垣圭嗣
SIer_SES_Difference
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デジタル時代において、企業がITシステムやソフトウェアを導入するのはもはや当たり前になっています。

そのような時代背景の中で、新たなシステムを開発・導入する際には社内でのノウハウや人材が不足していることから、外部のITエンジニアの助けを借りるSESやSIerなどのサービスを活用する企業も多いでしょう。
そこで、今回はSESとSIerを効果的に利用できるように、両者の特徴や違いを紹介します。

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目次

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SESとは

SES(エスイーエス)とは、System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)の略称です。

システム開発やソフトウェアの運用・保守など、顧客が必要とする特定の「業務」に対して、エンジニアの労働力・スキルを提供するサービスです。
SESの提供企業に所属するエンジニアの多くは、顧客先に常駐して業務を遂行する就業形態をとります。

SESは顧客が必要な期間だけ、労働時間単位でエンジニアの能力を提供します。
顧客が求めるものは、「足りない人員や開発期間に応じてエンジニアを確保すること」であり、「完成したシステム・成果物」ではありません。

例えば、システムのテストやソフトウェアの運用保守など、特定の業務に対して活用されるのがSESの特徴です。
SESでは労働時間で対価が発生し、成果物や要求される仕様は契約で定められていないため、仕様の変更にも柔軟に対応できます。

また、社内のノウハウやスキル不足が発生した際にも、SESであればスポットでエンジニアを補うことが可能です。

SIerとは

SIer(エスアイヤー)とは、システムを統合するという意味を持つSystem Integration(システムインテグレーション)の頭文字SIにer(〜を行う人)をつけた和製英語です。

SIerは、受託ソフトウェア開発または情報処理サービスを提供する企業を意味します。
受託したシステムを開発するだけではなく、顧客の要望に応じてシステムの統合、運用保守、コンサルティングなど幅広い業務の案件を受託します。
ビジネスシーンにおけるシステムの複雑化などを受けて、導入企業はシステムを扱える専門的な人員確保のためにSIerを活用しているのです。

SIerが向いているのは、ウォーターフォール型の開発プロセスを適用して製品を一括で構築する業務です。
ウォーターフォール型の開発プロセスは今も多くのSIerで採用されており、SIerの契約形態には相性の良い開発手法と言えるでしょう。
開発工程は、顧客と開発するシステムの企画、要件定義から始まり、設計、開発、テストと続きます。

このように、SIerは開発したシステムの保守や運用まで幅広く業務を受託するため、顧客(発注側)は、複数の業者へ業務を依頼する必要もなく、余分な従業員を割り当てる必要もありません。

なお、Slerと顧客は請負契約となるため、成果物に対して対価が発生します。
SIerには大小さまざまな規模の会社がありますが、企業の成り立ちにより大きく次の3種類に分類できます。

メーカー系

システム開発に必須なのは、情報処理技術です。
メーカー系SIerは元来、情報処理技術に長けたコンピューターのハードウェアメーカーから、情報システム部門が独立してできた企業です。

親会社の顧客にあたる、公共機関や大企業などの大規模なシステム開発案件を、親会社から受託することが多いのが特徴です。

ユーザー系

ユーザー系SIerは、一般企業の情報システム管理部門が親会社から独立・分社化してできた企業です。
コンピューターのハードウェアユーザーであることから、メーカー系に対してユーザー系と呼ばれます。

メーカー系のような業界の縛りではなく、商社系や製造・流通系、銀行・生保・証券などの金融系、建設系などの業界に分類できます。
親会社からの案件受注がメインですが、親会社の依存度が低い企業では外部からの案件受注率が高いこともあります。

親会社の業界・業種によってシステムの業務内容が異なるため、それぞれの業界に特化した強みを持っているのが特徴です。

独立系

独立系SIerはメーカー系やユーザー系のように親会社から独立した企業ではなく、SI(システムインテグレーション)を専業にしてきた企業です。

独立系SIerは自ら案件を獲得し、システム開発や運用業務を行っていきます。
異なる製造元の製品を組み合わせて使用するマルチベンダーSIによって、自由にシステム設計をできるのが特徴です。

IT業界の契約形態の違い

業務委託契約

IT業界の契約形態は大きく分けると準委任契約(SES)、請負契約(SIer)、派遣契約の3つです。
それぞれについて解説していきましょう。

準委任契約(SES)

SESには、主に準委任契約が採用されます。
出退勤や福利厚生など、エンジニアの労務管理を行う権限や、業務に関する指揮命令権はエンジニアの所属企業にあります。
顧客企業(発注側)は、プロジェクトのなかでエンジニアがどんな仕事をするかをSES企業に要請するのです。

準委任契約の特徴は、契約内容に従ってエンジニアのスキルや労働力を提供するため、労働時間で対価が発生することです。
また、顧客に対して成果物の完成・納品責任がなく、製品の不備に対する責任(契約不適合責任)もありません。

請負契約(SIer)

SIerは、顧客企業と請負契約を結んで開発を進めるプロジェクトが多数を占めます。
請負契約は準委任契約(SES)と異なり、エンジニアの働いた時間に関わらず成果物に対して対価を得る契約です。

請負契約の特徴としては、顧客(発注側)に対して製品の不備に対する責任(契約不適合責任)があることです。
そのため、顧客から欠陥が指摘された場合には修正に応じる必要があります。
また、顧客(発注側)には業務指揮命令権がありません。

派遣契約

3つ目は、労働者派遣契約です。
これは、派遣会社と労働者であるエンジニアが直接雇用契約を結び、派遣先である顧客企業内で業務につく契約形態を指します。

SES(準委託契約)と同様に、働いた期間に応じて報酬が発生し、成果物などの完成・納品義務がなく、契約不適合責任を負うこともありません。
SES(準委託契約)と異なる点は、業務指揮命令権が顧客(発注側)にあることです。

SESとSIerの違い

ここではSESとSIerの違いを改めて解説します。

SESとSIerのポジションの違い

SESとSIerの違いの1つに、ポジションの違いがあります。
ここでいうポジションとは、商流の階層構造における企業の立ち位置のことです。

IT業界の商流には階層があり、大規模な開発案件になるほど商流の階層が深くなる傾向にあります。

案件の発注元である顧客企業から案件を直接受注するのが元請け。
元請け企業から案件を請け負うのが二次請け。
同様に、三次請け、四次請けといった具合に、商流の階層が深くなっていきます。

このような商流の階層の中で、どの立ち位置にいるかがポジションの違いです。

例えば、大規模なシステム開発であれば、元請けや二次請けくらいのポジションで仕事をするのはSIerが多いでしょう。
大規模な開発要員をSESで調達するのは現実的でなく、発注側の顧客企業のリスクが高くなるからです。

三次請け、四次請けとなってくると、商流で上位に位置するSIerの不足要員を補充するために、SESでエンジニアを提供することが多くなってきます。

ある程度の規模の開発を元請けで受注すると、成果物の完成責任に伴うリスクが大きくなるため、受注できるのはリスクに対応できる技術力や体力を持った企業に限られます。
リスクの低い契約形態で仕事を受注しようとなるとSESが中心になってしまうため、おのずと商流のポジションは低くなることが多いでしょう。

もちろん、SIerとSESで商流におけるポジションが明確に分かれているわけではありません。
SES企業が顧客企業の元請けとしてエンジニアを提供することもあります。

発注側の企業としては、ケースによってSIerとSESを使い分けることも考えた方が良いでしょう。
SIerとSES、どのケースでどちらが適しているかについては後述します。

SESとSIerの依頼相場の違い

SESはエンジニアが働いた時間に応じて対価が発生します。
対して、SIerはエンジニアが働いた時間に関わらず、製品などの完成した成果物に対して対価が発生します。

そのため、Slerは顧客の要望を満たしていなかったり、成果物が未完成だったりすると対価を受け取れません。
受注側の企業は成果物が契約通りの数量、品質、期間で納品できなかった場合、契約不適合責任が問われるからです。

システム開発を一括で受注する請負契約の場合、成果物の完成責任があるため、開発プロジェクトの進行中に発生することが考えられる様々なリスクに対応できるよう、SIerはリスクに対する工数を見積もりに含めてきます。
そのため、同じ工数(人数×月数)を要する業務を比較すると、費用の相場はSESよりもSIerの方が高額になるのが一般的です。

逆にSESの場合、SES企業はエンジニアの労働力は提供しますが、成果物の完成責任がなくリスクに対する工数が含まれないため、費用の相場は比較的安価になることが多いでしょう。

SESとSIerの業務指揮命令権

SES(準委任契約)とSIer(請負契約)ともに、顧客(発注側)に業務指揮命令権はありません。
顧客に業務指揮命令権があるのは派遣契約だけです。

請負契約は完成品だけを合意する契約なので、完成品が出来上がるまでのプロセスはすべてSIerに委ねられます。
自動車や住宅などの製品を、受注生産してもらうのと同じと考えてください。

SESも同様で、顧客に業務指揮命令権はないのですが、SES企業に委託する業務内容や範囲、作業条件などについては明確に依頼しなければいけません。
準委任契約は特定の業務に対して労働力を提供するものであり、業務内容などは顧客側から提示された内容に従うからです。

SESの場合は成果物の完成責任をSES企業に問えません。
そのため、SES企業に依頼する業務と期待する成果を明確にして、提供された労働力に見合うだけの成果が得られるように、発注側の顧客企業が上手くコントロールする必要があります。

【注意】依頼の際はSESとSlerの特徴を見極めよう

システムの開発や保守を外部のIT企業に依頼する際、SESとSIerどちらが適しているかは開発するシステムの規模や業務内容、さらには発注側企業の状況によって変わります。
自社に適した選択をするためには、SESとSIerの特徴を押さえておくことが重要です。

本章では、SESとSIerの特徴を踏まえ、

  • SESへの依頼が向いている企業
  • SIerへの依頼が向いている企業

をそれぞれ紹介します。

どちらが自社に向いているかを判断するための参考にしてみてください。

SESへの依頼が向いている企業

SESとはシステムエンジニアリング、つまりエンジニアの労働力を提供するサービスです。
エンジニアごとの契約になるため、準委任契約の形態をとるのが一般的です。

そのため、ある期間だけ多くの要員が必要になるシステム開発よりも、不足している人員をピンポイントでサポートする業務が向いています。

下記の条件に当てはまる企業であれば、SIerよりもSESの利用が向いているでしょう。

  • ある特定の業務で不足している少人数の人員を増員したい
  • 半年~数年といった中長期のスパンで増員したい
  • システム部門などITに詳しい人が社内におり、依頼する業務内容や範囲、条件などを明確にできる

ある特定の業務とは、例えばシステム保守、システム運用が該当するでしょう。
常に小規模の開発や改修案件が動いているような企業なら、開発を担当するエンジニアに常駐してもらうことも考えられます。

また、まとまった規模のシステム開発に入る前段階のシステム企画・要件定義を、発注する企業のエンジニアに任せたい場合も、システム開発の契約とは別にSESで少人数のエンジニアに業務を委託するケースがあります。

SESでエンジニアに業務を依頼する場合、エンジニアに依頼する業務内容を依頼側が把握し、ある程度コントロールできることが必要です。
そのため、社内のシステム部門などに専任のエンジニアやITに詳しい人材がいる企業の場合は、SESを効果的に利用できるでしょう。

社内にシステム部門がない、ITに精通した人材がいない場合はSESに依頼する業務のコントロールが難しいため、あまり向いていません。
このような企業がSESを利用するなら、ITに詳しい人材を育成・採用するか、ITの窓口業務を外部に委託するなどの対策をしておくのが無難です。

SIerへの依頼が向いている企業

SIerは製品など成果物の完成責任を伴う請負契約の形態がとられます。
そのため、ある程度まとまった中・大規模の開発が必要となる場合に向いています。

下記のような企業はSIerへの依頼が向いていると言えるでしょう。

  • システムを新規構築するため3か月~6か月などの比較的短期間に一時的な増員が必要
  • システム構築に5名~10名以上の大人数が必要
  • ITに詳しい人材が社内にあまりいないので、開発業務を丸ごと委託したい

一般的に、システムの開発は規模が大きくなればなるほど、製品の完成に伴うリスクが高くなると言われます。
そのため、依頼側の企業が自社のリスクを下げるためには、受注側に成果物の完成責任があるSIerを利用するのが有効なのです。

また、社内にシステム部門がないなど、ITに詳しい人材があまりいない場合もSESよりSIerの方が向いています。
SIerであれば、開発プロジェクトの指揮や管理も含めて受注側のSI企業に丸ごと任せられるからです。

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近年、新たな契約形態「ラボ型開発」が注目

システムの開発や保守を外部に委託する際、選択肢はSESかSIerでしたが、近年はラボ型開発という新たな契約形態が注目されています。

ラボ型開発とは、チーム単位でエンジニアを一定期間確保して、発注者の指示で開発や保守を行う契約です。

開発するシステムの方向性や要件が定まっていない段階で、試行錯誤しながら開発を進めていくようなプロジェクトにはラボ型開発が向いています。
請負契約の場合は発注時点で決まった仕様どおりに開発が進められ、途中で仕様変更や追加があると追加費用が必要になります。
しかし、ラボ型開発なら仕様変更や追加が発生しても柔軟に対応でき、追加費用は発生しません。

また、チーム単位でまとまったエンジニアを一定期間確保できるため、システムの運用保守チームを長期にわたって編成したい場合などにも向いている契約形態と言えるでしょう。

ラボ型開発については下記の記事でも詳しく解説しているので、合わせて参考にしてください。

まとめ:システム開発を成功に導くためにはSESとSIerの特徴を理解することが重要

ビジネスシーンにおいて、新たなシステム開発や導入の際に、SESやSIerなどの外部のサービスを活用する機会が増えています。

企業間で契約を結ぶ際には、SESとSIerの特徴や違いを理解するだけでなく、依頼したい業務内容や範囲、自社の製品・サービスにマッチするかどうかなどの事前リサーチも重要です。

本記事で紹介したSES・Sler・派遣の3つの契約形態以外にも、近年のIT業界においては前述したラボ型開発の活用が進んでいます。
ラボ型開発は、オフショア開発なので人件費の低減が期待できる点、契約期間内ならば優秀な人材を確保しておける点がメリットです。

ラボ型開発についてさらに詳しく知りたい方は、個別に詳細を解説しているページがありますので、そちらをご覧ください。

この記事を書いた人
中垣圭嗣

WebメディアでPGから管理職まで幅広く経験し、Wakka Inc.に参画。Wakka Inc.のオフショア開発拠点でラボマネジャーを担当し、2013年よりベトナムホーチミンシティに駐在中。最近では自粛生活のなかでベトナム語の勉強にハマっています。