食品業界のDX事例を解説!解決可能な課題や進め方も紹介


こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
市場の状況や人材不足など、環境が変化を続ける中で、食品業界が抱える課題は数多く存在します。
そして、食品業界が抱える課題の多くを解決する方法として注目されているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
本記事では、食品業界のDX事例を基礎知識とともに解説します。
食品業界のDX推進の7ステップも、合わせてご覧ください。
食品ECのトレンド調査
食品ECで必要となる機能や、UX施策例をピックアップし解説しています。

【基礎知識】食品業界におけるDXとは

近年では、デジタル技術をビジネスに活用する概念として、DXが重視されています。
なぜなら、デジタル技術の活用はさまざまな課題を解決する可能性を秘めているためです。
本章では、食品業界のDXについての基礎知識を解説します。
DXとはデジタル技術を活用した改革
DXの概念は、おもに下記の通りです。
- デジタル技術を活用して業務効率化を図るとともに、新たなビジネスモデルの創出や企業風土の改革を目指す。
- 多様な変化を続ける市場に対応することで、企業としての競争力を獲得する。
DXが注目を集めたきっかけとなったのが、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」です。
同レポートは、DXによる課題解決が2025年までにできなかった場合、最大12兆円の損失を受けることを示唆しています。
食品業界においても、老朽化した既存のシステムの見直しやビッグデータの活用などに取り組み、DXを推進することが求められています。
DXで食品業界の生産性向上を目指せる
食品業界がDXに取り組むことで、生産性向上に期待できます。
例えば、食品工場をスマートファクトリー化した場合は、自動化によって人的リソース不足やボトルネック工程の解消などに貢献します。
ビッグデータを活用したマーケティングは、ユーザーニーズを把握しやすくなり、競争力の獲得において有用です。
このように、食品業界のDXには、生産性向上につながる可能性を秘めています。
DXとデジタル化は目的が異なる
DXとデジタル化は、混同されがちですが、目的が異なります。
DXとデジタル化の違いを比較してみましょう。
名称 | 目的 |
DX | ・デジタル技術の活用によって新たな価値を創出する ・変革を遂げる |
デジタル化 | ・アナログな情報をデジタル形式に変換する ・アナログな業務をデジタル技術で置き換えるなどによって業務効率化や生産性向上を図る |
上記のように、デジタル化はデジタル技術の活用による業務効率化・生産性向上にとどまるのに対して、DXはデジタル技術の活用による新たな価値の創出までを目的としています。
つまり、デジタル化はDXの手段のひとつということです。
DXに取り組む際に、デジタル化との意味を間違えないように気を付けましょう。
DXで解決可能な食品業界の6つの課題

食品業界がDXに取り組むことで、おもに下記6つの課題解決につながります。
- 人的ミス
- サプライチェーンマネジメント
- 業務効率化
- 品質管理
- 人材不足
- 食品ロス
本章では、DXで解決できる課題を解説します。
人的ミス
デジタル技術の活用・DX推進で解決できる人的ミスは、おもに下記の3つです。
見落とし・思い込み | 指示書や仕様書などの確認を怠る、機械の警告を見落とすなどによって発生するミス |
情報伝達ミス | 伝達側のミスや聞き間違いなどによるミス |
作業負荷 | 作業に追われることによるプレッシャーや焦り、疲労などに起因するミス |
デジタル技術の導入によって、指示書や仕様書を常に確認できる環境を構築すると、見落とし・思い込み・聞き間違いなどによる人的ミスを減少できます。
また、ロボットによる自動化や工数削減は社員の負荷を削減でき、作業負荷によるミスの対策として有効です。
上記のような取り組みは、スマートファクトリーにおいて取り入れられているケースもあります。
AI・IoT・ロボットなどを連携させることで、データ収集・分析や人的ミスの削減に役立っています。
サプライチェーンマネジメント
サプライチェーンとは、原材料の調達から消費者に届くまでのつながりを指し、そのつながりを管理することをサプライチェーンマネジメントといいます。
食品が消費者に届くまでは、原材料調達・製造・配送などの工程があるほか、消費期限や賞味期限なども考慮したサプライチェーンマネジメントが求められます。
その一方で、近年ではグローバル化が進み、サプライチェーンマネジメントが複雑さを増しています。
サプライチェーンマネジメントは、デジタル技術を活用することで最適化が可能です。
デジタル技術の活用によって、各工程の状況の見える化や適切な配送日時の調整などができ、サプライチェーンが抱える多くの課題を解決できます。
業務効率化
食品業界がデジタル技術を活用することで、情報の一元管理を実現しやすくなり、管理業務の効率化につながります。
工場の管理側が遠隔地にいる場合でも、IoTの活用により、場所を選ばない進捗管理が可能です。
近年では、人との協働が可能な「コボット」の開発も進んでいます。
コボットを導入できれば、単純作業に人的リソースを割かずにすみ、業務効率化を実現可能です。
品質管理
食品業界においては、製造品に何らかの問題が発生した際に活用できる「食品トレーサビリティ」が重要です。
問題があった食品が、どの工場・どの工程で製造されたかを把握できれば、原因究明や回収に迅速に取り組めます。
食品トレーサビリティには、ブロックチェーン・QRコード・RFIDなどのデジタル技術が使用されていることから、食品業界におけるデジタル技術の活用やDXの重要性が分かります。
2021年6月から義務化されたHACCP(ハサップ)に対応するためにも、デジタル技術が欠かせません。
HACCPとは、食の安全を脅かす危害要因を把握した上で安全性を確保する手法のこと。
HACCPを実現するには、製造工程ごとにセンサーやカメラを設置しての管理が必要です。
効率的で高レベルな品質管理には、デジタル技術の導入が有効です。
参照:厚生労働省「 HACCP(ハサップ)」
人材不足
中小企業を中心に、少子高齢化にともなった慢性的な人材不足が食品業界の課題です。
また人材不足の影には、技能伝承が不十分となり、知識・ノウハウが不足するケースもあります。
上記の課題を解決に導くのがロボットです。
ヒューマンパワーを必要としている工程にロボットを導入することで、人的リソースを削減できます。
ロボットは、製造に必要な知識を教える労力が少ないのもポイントです。
加工方法をプログラミングすることで、熟練職人並の仕事に期待できます。
食品ロス
食品ロスは、デジタル技術で収集したデータの活用で削減に期待できます。
データ活用が、どのように食品ロス削減につながるのかを、需要予測を例に考えてみましょう。
分析するデータが多いほど、需要予測の精度は向上します。
しかし、人間が分析できるデータ量には限界があるのが現状です。
そこで活躍するのがAIをはじめとしたデジタル技術です。
人間では不可能なレベルのデータ量を分析できるため、需要予測の精度が向上するのは明らかです。
したがって、需要予測の精度が向上した場合は、生産量を最適化できるため食品ロスの削減につながります。
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食品業界の4つのDX事例

DXを推進するにあたり、他社の事例を参考にするのは大切です。
なぜなら、具体的な取り組みの内容や考え方などから、自社に落とし込める要素が見つかる可能性があるためです。
本章では、以下4社のDX事例を解説します。
- 池田食品株式会社
- 味の素株式会社
- サントリーホールディングス株式会社
- 日清食品株式会社
池田食品株式会社|生産・出荷・在庫を数値で一括管理

池田食品株式会社は独自の基幹システムを活用したDXに成功しています。
基幹システムは、受注・生産計画・包装・出荷・在庫管理までを一括管理でき、データの転記が多かった非効率的な業務を解消できます。
池田食品では、業務効率化によって社員の残業時間削減に成功した一方で、残業代が減ったことによる反発も経験しています。
しかし、最終的に社員のベースアップという形で還元し、経営・現場が一体となったDXを実現しました。
令和5年に独立行政法人 中小奇病基盤整備機構が発表した「中小企業のDX推進に関する調査(2023年)」では、DXにすでに取り組んでいる・取り組みを検討している、と回答した企業は31%ほどにとどまっています。
このことを踏まえて、池田食品株式会社は、DXに取り組み成功した貴重な事例と言えます。
味の素株式会社|食と検討の課題解決企業

味の素株式会社では、データマネジメントの基盤構築・組織横断的な連携強化・最適活用に取り組むことでDXを推進しています。
さらに、DX人材育成にも注力し、デジタル活用による価値創造を推進する考えです。
味の素株式会社は、DXを推進する中でスマートファクトリーの実現にも取り組んでいます。
工場の稼働データ自動記録・ペーパーレス化・生産に関するKPIの可視化などの施策を実施し、業務効率化や社員の負担軽減などを実現しました。
さらに、データ基盤として「ADAMS(Ajinomoto DAta Manegement System)」を整備し、Excelを使用したデータ共有体制を刷新しています。
データの一元管理によって、情報リソースの活用が容易になり、バリューチェーンや対象事業の拡大を実現するという仕組みです。
サントリーホールディングス株式会社|新しい価値を生み出す手段としてのDX

サントリーホールディングス株式会社は、DXを通じて、よりパーソナライズしたサービスの提供を目指しています。
デジタルの力を活用し、消費者ごとの悩みを解決できるサービスを創出したい考えです。
消費者ごとの悩みを解決するには、膨大なデータの蓄積・分析が必要です。
そのため、AIモデルの構築も視野に入れたシステム基盤の構築にも注力しています。
サントリーホールディングス株式会社のDX推進体制は、DX戦略企画チームを中心とした複数のチームで構成されています。
部門横断的な体制の構築により、多角的な視野が取り入れられ、より価値のあるリアルアセットの創造が可能です。
日清食品株式会社|社内のIT部門が各部門のDXを支援

日清食品株式会社のDXは、IT部門が各部門のDXを支援しているのが特徴です。
DXを推進する際は、社員のITリテラシーをいかにして高めるかが課題になるケースもあります。
そのため、日清食品株式会社のIT部門は、以下のような役割を担います。
- 従業員のITリテラシーを高める
- デジタル化を支える労働環境やシステムを整える
- 各部門が推進したいことを支援する
以上のことから、日清食品株式会社が、経営・現場が一体となるDXの実現を目指す姿勢が伺えます。
2018年に完成した次世代型スマートファクトリーは、ロボットのみが生産活動に従事する形で自動化・効率化を実現しました。
製造過程の管理は、工場内の700万台のカメラと、集中監視・管理室に集約する仕組みです。
食品業界のDXを推進する7つのステップ

DXはどこから手を付けるべきか、と悩む人もいるのではないでしょうか。
本章では、以下7つのステップに分けて食品業界の推進手順を解説します。
- 経営層がDXの理解を深める
- DXの目的を明確化
- DXを推進する組織体制を構築
- IT資産を分析・評価
- 既存業務をデジタル化
- 定期的な進捗状況確認
- DXを実現
経営層がDXの理解を深める
DXは、長期的な視点かつ企業全体で取り組む必要があり、資金投資を要するため経営層の理解が不可欠です。
そのため、まずは経営層がDXに対する理解を深めなければなりません。
経営層がDXの理解を深めた後に、現場への協力要請や情報共有などを実施し、DXを主導しましょう。
DXの目的を明確化
DXの目的を明確にする理由は、おもに下記の2つです。
- DXそのものがゴールと捉えてしまう勘違いを防止するため
- 目的から必要なツールや適した手順を逆算できるため
上記のうち、目的からツールや手順を逆算するのは特に大切です。
目的から逆算することで、計画に具体性を持たせることができ、余計な投資を防止できます。
なお、計画は時間的な余裕を持って策定してください。
時間的な余裕のある計画策定によって、必要時の軌道修正など、柔軟性を確保できます。
DXを推進する組織体制を構築
DXを推進する組織体制は、おもに下記の3パターンがあります。
IT部門拡張型 | 既存のIT部門を中心にDXを推進する。 通常業務にDX業務が加わるため、人材補充が必要になるケースが多い。 |
事業部門拡張型 | 各部門内にDX推進チームを設置する。 現場の状態・状況に適したDX推進に期待できる。 |
専門組織設置型 | DX推進部門を新たに設置する。 部門横断的なチーム構成にすることで、多角的な視点からのDX推進に期待できる。 |
本記事で解説した事例は、ほとんどが専門組織設置型です。
ただし、どのパターンが最適かは企業の状況によって異なります。
どのようなパターンでDXを推進するかは、社内で十分に検討しましょう。
IT資産を分析・評価
IT資産は、以下の手順で分析・評価を進めます。
- 老朽化・ブラックボックス化・複雑化・属人化しているシステムがあるかを確認
- 既存システムを改修・維持した際のコストを算出
- 新規システムを導入した場合のコストを算出
実際に、日清食品株式会社はDXの一貫としてレガシーシステム停止を実施しています。
参照:日清食品株式会社 日清食品ホールディングスが「デジタルトランスフォーメーション銘柄2020」に選定
既存システムは、保守費用や担当社員の負担などが増大したり、システム同士が連携できなかったりというリスクがあります。
社員への聞き取りも進めながら、既存システムの改修・維持と新規システムの導入のどちらにすべきかを検討しましょう。
既存業務をデジタル化
DXはデジタル技術を活用する取り組みのため、既存業務のデジタル化が不可欠です。
デジタル化をスムーズに進めるポイントはスモールスタートです。
大々的にデジタル化に取り組んだ場合は、変化に対応しきれず、かえって業務効率が低下するリスクが想定できます。
まずは、請求書をデジタル化する・Web会議ツールを導入する・チャットツールを導入する、など手近なところから取り組みましょう。
定期的な進捗状況確認
DXの進捗状況は定期的に確認し、必要に応じて計画を修正してください。
進捗状況は、策定した計画書と照らし合わせて確認する方法もありますが、経済産業省が発表した「DX推進指標(サマリ)」を参考にする方法もあります。
DX推進指標は、自己診断にもとづいた進捗確認ができ、計画修正が必要かどうかの判断材料として活用できます。
DXを実現
DXのゴールは、デジタル技術を活用した、新たなビジネスモデルやサービスの創出です。
デジタル化した情報リソースを分析し、需要予測の精度を向上させ、新たな食品やサービスを創出しましょう。
ただし、新たなビジネスモデルやサービスを創出しても、DXは終わりではありません。
DXを実現した後も、新たな価値を創出できるよう、定期的な進捗確認やデータ分析を繰り返し実施してください。
食品業界DXに活用できる2つの補助金

DXの推進には企業の資金投資が不可欠ですが、資金繰りが難しい場合でもDXに取り組める策があります。
本章では、食品業界のDXに活用できる2つの補助金を解説します。
なお、補助金の申請にはさまざまな書類が必要です。
補助金は、必要書類と内容を確認した上で申請しましょう。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者を対象にした補助金です。
革新的な製品・サービスの開発や生産プロセスの省力化などに必要な設備投資を支援してくれます。
現時点(2025年2月)では、公募のスケジュールは明らかになっていませんが、利用を検討している方は「ものづくり補助事業公式ホームページ」を確認してください。
なお、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、事業化状況・知的財産権等の報告義務が発生します。
IT導入補助金2025 セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、サイバーセキュリティ対策強化のためのITツール導入経費を一部補助する補助金です。
対象は中小企業・小規模事業者となっており、登録されたサービス利用料(最大2年分)を補助します。
2025年のスケジュールは、3月31日に受付開始となっているため「IT導入補助金2025 セキュリティ対策推進枠」の資料を確認して準備を進めてください。
食品業界はDXで新たな価値を創出できる

本記事では、食品業界のDXの基礎知識や解決できる課題などを解説しました。
特に大切なポイントは以下の2つです。
- DXで解決できる食品業界の課題は多い
- DXは全社的に取り組む
DXを推進しても、すべての課題を一気に解決できるわけではありません。
しかし、ひとつひとつの課題解決に長期的に取り組むことで、革新的なビジネスモデルや製品開発などへの道が開けます。
この機会に、食品業界のDXを推進し、新たな競争力の獲得を目指してみてはいかがでしょうか。
食品ECのトレンド調査
食品ECで必要となる機能や、UX施策例をピックアップし解説しています。

