海外ビジネス拠点のベストな進出先は?日本企業の傾向と推移まとめ
こんにちは。Wakka Inc.ラボマネージャーの中垣です。
近年、日本企業の海外進出の動きが活発になりつつあります。さまざまな業種において、海外に拠点をおいてマーケットの販路を拡大する企業が増えています。
マーケット開拓のためには、海外進出の推移を把握しておくことが重要です。この記事では、日本企業の海外進出拠点の状況や、進出国のランキングをまとめました。
さらに、海外進出を果たしている企業の組織形態についても解説します。海外進出拠点を視野に入れている場合には役に立つ情報ですので、ぜひ最後までご覧ください。
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日本企業の海外進出拠点の状況
日本企業の海外拠点数は、10年で約2倍になっている
下記の外務省の統計は、2005年から2017年における日系企業の海外拠点数の推移を示しています。
これには現地法人だけでなく、本邦企業のオフィスを海外に移したものも含まれています。
グラフにもある通り、2005年における海外拠点の数は約35,000であったのに対して、2017年になるとその数は75,000を超えています。
つまり、過去12年で海外拠点の数は2倍以上にも増えているのです。
さらに、グラフが右肩上がりとなっているのも注目すべきポイントです。統計によれば海外拠点数の合計は、
- 2020年度 約77,000
- 2021年度 約80,000
と、順調に増加していることがわかります。グローバル型の流れが確実に推進されていることが、データにもはっきりとあらわれているのです。
海外進出がさかんな業種は製造業と卸売・小売業
また下の画像に示すのは、2021年度における海外進出拠点の業種の分布です。表によると、海外進出拠点の総数約80,000件のうち、
- 製造業 : 約20,000件(全体の25%)
- 卸売・小売 : 約10,000件(全体の12%)
が最もメジャーな業種であることがわかります。製造業の海外進出理由として最も大きいのはコスト削減です。
海外では人件費・材料費および税金といった、事業を運営していくうえで常にかかってくるコストが、日本の数分の1にまで抑えられることが多々あります。
たとえばタイの物価は日本の約半分の水準ですし、インドネシアでは約4分の1です。
製造業では、工場で作業をしてもらうための作業員の人件費や、商品を作るのにかかる材料費が、事業コストの大きなウエイトを占めています。そのようなコストを大幅に削減できるために、製造業の多くの企業が海外に拠点をかまえているのです。
また、卸売業や小売業は事業への参入障壁が低く、なおかつコストもかかりづらい海外においては人気の業種となっていると考えられます。
出典 : 海外進出日系企業拠点数調査
そして上記の表からは、海外進出拠点の業種の多様性を読み取ることができます。これは日本の高い技術力によるもので、建設業、情報通信業、電気系業、専門技術サービス業などにおける海外進出の動きも多いです。
日本企業の海外拠点への進出が増えている理由
国内の少子高齢化と世界の人口増加
現在の日本では、少子高齢化が深刻な社会問題となっています。さらに、景気の不況などによる人口急減も日本の抱える問題の1つです。
- 経済状況が厳しく、子どもを養う余裕がない
- 晩婚化や未婚化により少子化が加速している
など、こちらも複雑な要素が混在することで引き起こされている問題です。少子高齢化により、日本では将来的に生産年齢人口が大きく減少していくという統計が発表されています。厚労省の統計によると、2014年に約6,000万人いた生産年齢人口は、
- 2030年には約5,300万人
- 2060年には約3,700万人
にまで減少する推定されているのです。労働人口の減少によって国内のGDPは大きく低下し、国内市場規模も縮小することが懸念されています。
そのため、日本でビジネスを展開する場合の期待値が小さくなっているのが現状です。しかし、日本における高齢化・人口急減の傾向とは対照的に、海外諸国では人口の増加の動きが高まっています。
2020年における世界の人口はおよそ75億人ですが、2050年には97億人にまで増加することが推定されているのです。とくに
- インド
- 中国
- 東南アジア
での増加率が高く、各地域での市場規模の拡大に期待が高まっています。
グローバル化による企業価値の向上
グローバル化による企業価値の向上も、海外に拠点をかまえる企業が増えている理由の1つです。ドメスティックな事業展開に限定していると、経営力のあるグローバル企業が国内参入してきたときに太刀打ちできなくなってしまいます。
「販路を複数確保して、多数のマーケットで勝負していくことで、はじめてビジネスのリングに立てる」というのが、市場の現状といえるかもしれません。
日本企業は、とくにものづくりやITの分野で技術力における高い評価を受けています。その技術力をもとにして国内外でビジネスを展開していけば、グローバル化の流れに取り残されることなく、海外の企業とも戦えるでしょう。新たな販路の開拓も期待できます。
上記のような理由から、これまで国内向けにビジネスを展開していた多数の日本企業が、海外進出する流れが高まっています。
また生産コストや人件費を抑えるために、海外進出拠点を果たす企業も多いです。法人税や付加価値税が安くすむため、日本の高い税制からも解放されるのも大きな魅力でしょう。先ほども述べたように、コストが安い地域である東南アジアへの進出が、日本企業の海外進出拠点では多くの割合を占めています。
それに加えて、日本では法の規制があって拡大が難しいビジネスであっても、海外であれば緩い規制で展開できるビジネス領域があります。
たとえば仮想通貨取引のビジネスは、東南アジアやヨーロッパでは規制がそこまで厳しくありません。それに対して日本では、特定の業者しかできないようにしたり、トレードの量が制限されていたりと、事業展開の足かせになってしまうような規制が存在しています。
Web3産業などの最先端ビジネスをする際には、海外に拠点をおくと自由度が高まるのです。
日本企業の海外進出国ランキング、推移
日本企業の海外進出国の地域別の推移
ここからは、過去数年にわたって、「日本企業の海外進出状況は、どの地域で顕著に変化しているのか?」外務省のデータをもとに見ていきます。
まず、海外進出拠点において、日本企業の進出が最も活発な地域は、一貫してアジア地域であることがわかります。割合でいうと、全体の約70%の拠点がアジア地域に設置されています。
また2008年から2017年までの増加率は約40%となっており、着実に参入が増加している傾向が読み取れます。アジア地域は全体的に海外進出に適している性質を持っています。
コストの安さや海外進出に対する優遇政策があり、企業からすると非常に多くのメリットを得られます。そのため、近年成長が顕著な地域の多くがアジア圏に集中しているのです。
次に日本企業の海外進出拠点において、大きな割合を占めている地域は北米です。北米とは、
- アメリカ
- カナダ
- メキシコ
などの国を指しています。割合としては全体の約12.5%の拠点数を占めています。増加率は約50%と、続々と参入が進んでいる状況です。
アメリカは世界で最もGDPの高い国として有名で、北米地域は全体的に経済が活性化しています。そのマーケットに参入しようと、世界各国から企業の進出が見られます。
3番目に多く見られる地域は西欧です。割合は全体の約8%で、増加率は約20%となっています。
西欧は機械産業が盛んな地域が多いです。ドイツの自動車産業や、フランスの航空産業のはとくに有名でしょう。また、西欧は食文化にも熱心な地域で、日本食なども大変な人気があります。
その他、アフリカや南米など、世界各地の海外拠点への進出が見られます。
日本企業の海外進出国ランキング
下記は、外務省の統計をもとにした、日本企業の海外進出拠点国の上位12国を示しています。
ぞれぞれの国の特徴と、2008年から2017年への増加率を、より詳しく見ていきましょう。
第1位 : 中国 32,349拠点(増加率約10%)
中国はGDPの高さ、物価の安さ、海外進出への優遇政策などから、経済発展という観点において以前から注目されている国です。
第2位 : 米国 8,606拠点(増加率約50%)
世界一のGDP、国家権力を誇るアメリカは、企業の拠点をおくのに最適な環境であるといえます。
第3位 : インド 4,805拠点(増加率約400%)
人口の多さ、IT大国としての側面をもつインドは、DX化の時代においてとくに注目されています。
第4位 : タイ 3,925拠点(増加率約300%)
タイは、物価や人件費の安さが魅力で、IT化への政策も整えられています。
第5位 : インドネシア 1,911拠点(増加率約50%)
インドネシアは、資源の豊富さと物価の安さから、製造業の進出拠点先として人気があります。
第6位 : ベトナム 1,816拠点(増加率約100%)
ベトナムは優秀なIT人材が多いことや、中国と近いことから人気があります。
第7位 : ドイツ 1,814拠点(増加率約50%)
ドイツは、自動車産業をはじめとした機械産業が活発な地域です。
第8位 : フィリピン 1,502拠点(増加率約50%)
フィリピンは、物価の安さ、マーケットの開発余地などから、さまざまな業種の海外進出先として注目されています。
第9位 : マレーシア 1,295拠点(増加率約10%)
フィリピンと同様に、マレーシアも物価の安さや開発余地によって人気があります。
第10位 : シンガポール 1,199拠点(増加率約10%)
シンガポールは東南アジアで最も栄えている地域のひとつで、さまざまな企業の拠点があります。
第11位 : メキシコ 1,182拠点(増加率約200%)
メキシコはGDPが高く、飲食業やサービス業において人気のある地域です。
第12位 : 台湾 1,179拠点(増加率約40%)
台湾は日本と近く、共通の文化が多かったり、優秀な人材が多く存在したりすることが人気の要因です。
なぜ日本企業の中国・アメリカ・インド・タイへの海外進出が多いのか?
日系企業の海外進出拠点先として多いのが、
- 中国
- アメリカ
- インド
- タイ
です。ここからは「どうしてこれらの国々が海外進出拠点先として適しているのか?」を詳しく解説していきます。
中国
中国の強みとしてまずあげられるのは、14億人という世界一位の人口数からなる、豊富かつ安価な労働力でしょう。生産拠点を設置する場合にまず問題になるのが「十分な人材をどれくらい安価で確保できるか?」ということですが、中国の場合この問題はあまり大きな問題にはなりません。
また、GDPもアメリカに次ぐ世界2位で、日本と比較しても3倍以上の市場価値があります。市場規模も世界最大レベルという強みがあるのです。
さらに中国では経済特区制度を設けるなど、海外進出企業の負担を軽減してくれる政策が充実しています。このように、
- 十分な労働力が確保できる
- 商品を販売できる十分な市場がある
- ビジネスにかかるコストが少なくてすむ
といったさまざまな利点があるため、中国は海外拠点進出先の国として、非常に魅力的であるといえます。
アメリカ
アメリカは世界3位の人口数を有し、GDPが世界一ということから、市場規模および労働力では進出先として最適な国です。IT産業や機械産業、飲食業はもちろんとして、豊富な資源や自然を活かしたさまざまなビジネスが展開されています。
具体的な日系企業のアメリカへの進出例として、
- トヨタ・ホンダなどの自動車メーカー
- パナソニックやソニーなどの家電メーカー
などがあります。さらに、アメリカにはGAFAの本社があるなど、トップ企業の本社が集結していることも、ビジネスを進めるうえで大きなアドバンテージです。
アメリカは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済に大きな打撃を受けたものの、迅速な経済復興を遂げています。逆境をはね返す経済の再生力も、アメリカの魅力の1つといえるでしょう。
※GAFA・・・Google, Amazon, Facebook, Appleの4社の総称
インド
インドの海外進出拠点としての魅力は、
- 人口数の多さ
- 成長率
- IT大国としての側面
です。インドの人口数は現在、中国に次ぐ世界第2位ですが、国連の発表によれば、2023年には中国を上回り、世界最多になると推定されています。
さらに2050年には16億6800万人となり、中国の13億1700万人を大きく引き離すとみられています。
つまり、豊富な労働力を確保できることが、将来にわたって保証されているのです。
経済の成長率の側面でも注目です。2013年と比較して、海外進出拠点の数は約3倍近くにまで増加しています。これは驚異的な成長率であり、経済縮小の動きがみられる日本とは対照的に、ビジネスをするには最適な環境となっています。
インドはまた、IT大国としての側面も持っています。インドは理系に対して強く、優秀なSEや研究者を多数輩出していることで知られています。GAFAの人材担当が、わざわざインドのトップ大学まで人材のスカウトにやってくる話は有名です。レベルの高い人材を安価で雇用できるのも、インドという国の魅力なのです。
タイ
タイの特徴として、GDPの浮き沈みが激しいことにあります。これは、国家の利益が輸出に大きく依存しているためです。前年比で10%近く変化することもざらにあります。
GDPの増減を改善しようと、タイ政府は2015年からIT化計画を発足し、2036年までに一人当たりのGDPを13,000ドルまでに引き上げる計画を立てています。まだまだITの開発の余地がある国として、タイはマーケットに進出しやすいといえるでしょう。
また、人件費および物価、税金の安さなどコスト的な面でも、タイは海外進出拠点先として適しています。
ベトナムにグローバル開発拠点設立を予定している方へ。
日本のIT企業さまにご利用いただけるベトナムでの現地法人設立マニュアルです。
ベトナム法人設立における基本STEPや人材採用の基本手法について解説しています。ベトナムでの法人設立手法、スケジュール感を知りたい方はぜひダウンロードしてみてください。
海外進出している企業の組織形態について解説
海外進出拠点の企業にはさまざまな組織形態があります。通常のサービス・商品を販売する企業には、大きくわけて4つあります。一口に多国籍企業といっても、それぞれのタイプにおいて適している事業内容やフェーズはまったく異ります。
この章では、それら4つの企業の組織形態について詳しく見ていきましょう。
マルチナショナル型企業
海外進出拠点での組織形態で最もメジャーなのが、マルチナショナル型です。マルチナショナル型企業は、進出拠点現地の法人が、独自の
- 経営方針
- 経営人材
- 経営資源
で事業を運営し、本国の事業とは完全に独立したビジネスを進めるタイプの組織形態のことをいいます。そのため、本社の経営方針や事業内容とはほとんど関係がなく、進出拠点先の国における経済・文化・その他特性におうじたマーケットを開拓できます。
幅広いビジネスを展開している企業の多くが、マルチナショナル方に該当しています。進出先の国に合わせて、最も事業が成功しそうなビジネスをおこなえるのが最大のメリットです。
また、そこで得た新たな知見を、本社および他の海外進出拠点に活かすこともでき、ビジネスの推進における相互作用も生まれます。
ただし、マルチナショナル型企業はグループ間のコミュニケーションが少ないため、
- ビジネスプロセスの効率性
- イノベーションの横断的事業展開
の面では、あまり強くありません。
トランスナショナル型企業
トランスナショナル型の企業では、マルチナショナル型と同様にして、基本的には進出拠点先現地の法人が独立した裁量で経営をおこないます。
しかしマルチナショナル型とは異なり、各国の現地法人が経営資源の調整などの面で連携しつつ事業推進がおこなわれます。
グローバル型のように、本国の企業が本社、海外拠点はあくまで支社の位置づけというわけではありません。
各国の現地法人が相互依存しているネットワーク状の組織形態となっています。
情報共有や経営方針の修正などが迅速におこなえるため、ビジネスプロセスの効率性、イノベーションの横断的事業展開においては強さを発揮します。
一方で、組織同士の依存度が高いビジネス形態となっているため、全体的に事業がうまくいくよう常に調整する必要があり、組織のマネジメントが難しいという課題があります。
インターナショナル型企業
インターナショナル型の企業において、海外進出拠点先の現地法人は、本社から与えられた方針をもとにして、みずから事業の運営をおこなっていきます。完全に本社の言いなりというわけではなく、現地法人にも裁量権が与えられているのが特徴です。
後述するグローバル型と比較して、現地法人の役割が重要になってくるため、適応力およびビジネスの学習力といった面においてメリットがあります。しかし、現地法人の経営陣の手腕にビジネスが左右されやすく、事業が失敗するリスクも高くなります。本社がある分、企業全体のダメージはトランスナショナル型やマルチナショナル型と比較すると少ないです。
ビジネスプロセスの効率や適応力を考えたとき、総合的に最もリスクとリターンのバランスがいいのがインターナショナル型といえます。
グローバル型企業
グローバル型企業では、本国にある企業本社に権限、経営資源が集中しています。各国の現地法人は、本社の命令を受けて事業の運営をおこなっていきます。歴史的にみると、グローバル型は、多国籍企業の最も古い組織形態です。
現在でもグローバル事業を推進するときの最初の組織形態としては、グローバル型を適用させるのが一般的な戦略です。
グローバル型の組織形態では、経営方針の策定・商品およびサービスの開発はすべて本社がおこない、それをさまざまな国で推進していきます。そのため「まずは1つの事業を軌道に乗せたい」と考える場合には、グローバル型は最も効率的な組織形態です。
また、経営資源のマネジメントも本社で完結するので、資源ロスが抑えられることもメリットになります。しかし、海外進出拠点先の現地におけるマーケットの特性をほとんど完全に無視することになるので、海外への適応力が少ないという課題があります。
また、マルチナショナル型のように、新たな商品やビジネスの知見を得られるチャンスはあまり多くありません。
最新のトレンドを知って海外拠点への進出を成功させよう
今回の記事では、日本企業の海外進出拠点の傾向や、進出国のランキング、組織形態について解説しました。海外拠点への進出には、
- 最新のマーケットトレンドの動向
- イノベーションテクノロジー
などの情報収集が不可欠です。海外進出をする際には、事業プランをできるだけ明確にし、専門家の力も借りて、万全の態勢で挑みましょう。
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ベトナム法人設立における基本STEPや人材採用の基本手法について解説しています。ベトナムでの法人設立手法、スケジュール感を知りたい方はぜひダウンロードしてみてください。
WebメディアでPGから管理職まで幅広く経験し、Wakka Inc.に参画。Wakka Inc.のオフショア開発拠点でラボマネジャーを担当し、2013年よりベトナムホーチミンシティに駐在中。最近では自粛生活のなかでベトナム語の勉強にハマっています。