デジタルヘルスケアとは?政府が目指す取り組みから推進事例まで解説

2023.02.13
DX・システム開発
中垣圭嗣
デジタルヘルスケアとは?政府が目指す取り組みから推進事例まで解説
SHARE ON
  • FaceBook
  • Twitter
  • LINE
  • Note

こんにちは。Wakka Inc.ベトナムラボマネージャーの中垣です。
様々な市場でDX技術が導入され、業務の効率化だけでなく、付加価値を高めるような業務展開にチャレンジする企業が増えてきました。
医療業界やヘルスケア部門も例外ではなく、DXの重要性はますます高まっています。DXと同時にウェアラブル端末などの普及により、デジタルヘルスケアという概念も浸透してきました。本記事では「デジタルヘルスケアはどのようなものなのか?」を、急拡大している市場規模や取り組み事例なども含めて詳しくご紹介いたします。デジタルヘルスケアについてご興味のある方はぜひご参考になさってください。

Wakka.IncではDXプロジェクトを検討している担当者の方に向けて、失敗しない社内体制の構築から開発リソース確保までを網羅して解説しているDX進め方ガイドブックを無料で配布しています。ぜひご確認ください。

目次

デジタルヘルスケアとは

デジタルヘルスケアとは、健康増進や健康管理にデジタル技術を活用した取り組みを指します。医療と聞くと、病院で診断されたり治療してもらうものを想像する方が多いのではないでしょうか。
多くの患者は体の不具合、または健康診断などで数値の異常が発覚してから治療を開始します。例えば生活習慣病は突然発症するのではなく、日々の生活の積み重ねで体の不調が現れることが多いです。

そのため生活習慣病の予防は、普段の生活から自身の体の状態を正確に把握し、予防するのが重要とされています。近年普及してきた体の状態を把握できるウェアラブル端末も、デジタルヘルスケアのひとつと言えるでしょう。
デジタルヘルスケアは病院に縛られず、普段の生活から体の状態を把握できるため、予防医療や病気の早期発見に有効なのです。
注目を集めているデジタルヘルスケアの現在と市場規模を確認していきましょう。

デジタルヘルスケアはなぜ注目されるのか

デジタルヘルスケアへの注目が高まっている主要因のひとつが、感染症の流行による遠隔医療の急速な普及でしょう。
隔離措置や移動制限は、世界中の医療体制に大きな影響を与えました。患者に直接対面しなくてもよい遠隔診療は、感染流行時の医療体制の維持に貢献しています。
またウェアラブルデバイスの進化も、デジタルヘルスケアが注目される一因です。
飽和酸素濃度や、脈拍を測る機能が実装されているデバイスをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。飽和酸素濃度を測定する専用の機械では、個人の数値は測れますが、データとして多くの人に活用してもらうのは難しいでしょう。

しかし最新のウェアラブルデバイスはネットに接続されるものが多く販売されています。
測定されたデータはネット経由でクラウド上に蓄積できるため、ビッグデータ解析などの高度な分析にも活用できるでしょう。解析されたデータは予防医療などに応用し、生活の質の向上が期待できます。
遠隔医療、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析などのDX技術はヘルスケアに携わる業種に大きな影響を与えるため、注目を集めているのです。

日本におけるデジタルヘルスケアの現状

日本におけるデジタルヘルスケアの取り組みは、欧米諸国と比べて遅れていると言われることがあります。ひとつには、国民皆保険制度に要因があるのかもしれません。
日本の医療制度はフリーアクセスが原則となっているため、土地に縛られず医療機関を受診するのが容易です。一方、欧米の医療制度はゲートキーパー型が定着しています。
ゲートキーパー型は自身でかかりつけ医を登録し、日々の健康の管理から症状の治療まで行います。万が一病状が悪化した場合、かかりつけ医から指定の病院や専門医の受診を指示される仕組みです。

さらに、ゲートキーパー型はフリーアクセス型よりも病院のアクセスが悪いため、効率が重視されます。そのため受診の効率化を進める上で、デジタル化と相性が良いのです。
日本でもかかりつけ医制度は導入されていますが、大前提としてフリーアクセス型が堅持され、対面での診察が重要視されています。対面での診断、治療はアナログ的な要素が強く、デジタル化との相性があまり良くありません。そのため、デジタルヘルスケアの取り組みが普及しにくいのが現状なのです。
しかし、今後の少子高齢化社会での医療を維持するためにも、デジタルヘルスケアの取り組みは急務でしょう。なぜなら、増え続ける医療費を抑制しなければ、高齢者を支える若年層の負担も限界を迎えてしまうからです。

デジタルヘルスケアの市場規模

経済産業省とみずほ銀行が共同で行った調査報告書によると、デジタルヘルスケアにおける市場規模は2016年で25兆円、2025年には33兆円になると推定されています。
また世界に目を向けてみると、2025年には4837億5000万米ドルもの市場規模になるとの予測もあります。デジタルヘルスケアの市場成長率は高く、様々な業種が関わるため、裾野は非常に大きいと言えるでしょう。
参照:
経済産業省『令和2年度補正遠隔健康相談事業体制強化事業 調査報告書
value press『デジタルヘルス市場、2025年に4,837億5,000万米ドル到達見込み』

デジタルヘルスケアで実現できること

デジタルヘルスケアが普及するとどのようなことが実現できるのでしょうか。主に3つの大きな変化があると言われています。

予防医療

デジタルヘルスケアでもっとも期待されている分野のひとつが予防医療です。
当然のことですが、健康を保てば医療費は掛かりません。また、病気が重篤になってしまえば本人が苦しむだけでなく、医療費の負担はより重くなります。健康な体を維持するためには、病気の予兆を早めに察知する必要があるでしょう。
多くの人が1年に1回の健康診断で体の異常を把握していますが、1年のスパンでは病気が進行してから見つかるケースも少なくありません。そのため普段の生活から軽微な異常を察知することが求められます。現在ウェラブルデバイスで測定できる情報は

  • 心拍数・体温・血中酸素濃度などのバイタル情報
  • 心電図などの生体電気情報
  • 睡眠の状態

などです。また今後は

  • 血圧
  • 血糖値などの化学物質の濃度測定

などの測定にもウェアラブルデバイスの活用が期待されています。
またウェアラブルデバイスには、必ずしも本人が能動的に測定しなくても自動で計測できる機能も実装されています。健康維持や疾患の予防、また罹患してしまった疾病が進行するのを防ぐためにもデジタルヘルスケアは有効です。

治療

デジタルヘルスケアは薬で治療している領域にも影響を与えるでしょう。代表的な例は禁煙です。禁煙は自身の意思で達成するか、健康保険が適用される禁煙治療を受けるのが一般的でしょう。
しかし最近は禁煙の治療アプリが登場し、新しい治療法として注目されています。薬を服用するのではなく、治療アプリで患者の行動変容を促すのです。
自身の呼気中に含まれる一酸化炭素の濃度(CO濃度)を測定し、喫煙の状況をモニタリングします。禁煙をサポートするアドバイスを個人に合わせて受けることも可能です。治療薬だけでも禁煙をサポートしてくれますが、アプリと併用するとより成功の可能性が高まります。

このようなアプリはデジタル薬と言われ、今後様々な症例に処方されていくでしょう。デジタル薬は一般的な医薬品と違い、開発コストがそれほど掛かりません。
また異物を体に入れるわけではないので、副作用が起きにくいメリットもあります。新薬の開発コスト削減にも役立つため、デジタル薬は製薬メーカーも注目している分野のひとつです。
参照:CureAPP SC

回復期

デジタルヘルスケアはリハビリテーションへの応用も可能です。
リハビリテーション施設などの臨床下で観察できる行動だけでなく、日常生活での振る舞いをデータ化できれば、より患者に沿ったリハビリテーション計画を作成できるでしょう。

  • 日常の動作速度
  • 歩行のバランス
  • 関節可動域の測定

などの動作についてデータ化できれば、リハビリの進捗状況が患者本人にもわかりやすく理解できます。測定されたデータはクラウド上に保管されるため、医療機関、介護施設間での情報共有も可能です。
回復期における重要なデータを蓄積できるため、新たな患者のリハビリテーション計画を作成する際にも有効に働くのです。
参照:モフ測

デジタルヘルスケア実現のために政府が目指す道筋

デジタルヘルスケアの取り組みを推進するために政府はどのような道筋を描いているのでしょうか。厚生労働省や経済産業省、デジタル庁など様々な政府機関が連携して実施している取り組みの一例をご紹介します。

PHR

PHR(Presonal Health Record)は、デジタルヘルスケアを実現するために特に重要な技術と言えるでしょう。

  • 受診状況
  • 疾患歴
  • 服用薬の情報
  • ワクチンの摂取状況
  • 要介護度の情報

PHRは、クラウド上に保管された上記のようなデータを、必要とされる医療機関や介護事業所に共有するネットワークです。
本人の了承は必要ですが、医療や介護の効果を上げるには、患者の個人データを効果的に活用するのが重要です。政府はマイナンバーカードを用いた全国医療情報プラットフォームの構築を目指しています。PHRにより、医療資源の効率的な利用や、より個人にあった医療の提供が期待できるでしょう。

オンライン診療

政府は、感染症対策で急速に普及したオンライン診療の恒久化も目指しています。特に遠隔地は医療従事者の確保が難しいため、場所に縛られないオンライン診療は医療体制を確保するにも効果的です。
オンライン診療には、利用する側と提供する側双方のリテラシーの向上、診療報酬の算定など様々な問題があります。
しかし医療費の抑制効果だけでなく、利用者の利便性の向上、地域間の医療格差の是正など得られるメリットは計り知れません。
また今後は遠隔医療で必要な医療機器を配置できるような支援も実施予定です。デジタルヘルスケア実現のために、オンライン診療にも大きな期待が寄せられています。

デジタルヘルスケアを実現させる企業の取り組み

デジタルヘルスケアを実現するために各企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。代表的な取り組みを2つご紹介いたします。

服薬支援

慢性疾患においては、治療効果を維持するにも服薬の継続が欠かせません。しかし、服薬自体を忘れてしまい、治療効果が正しく発揮できていないケースも多くあるのです。75歳以上の患者の分だけでも年間500億円分の残薬が発生していると言われています。
現在、薬剤師が服薬指導をする際には、残薬の確認をするなど様々なアプローチがなされていますが、まだ十分な解決には至っていません。
そこで服薬を支援するアプリや、服薬時に自動で知らせるお薬ケースなどの開発が進められています。残薬による経済的な損失を防ぎ、治療効果を維持するためにも、服薬支援は欠かせない問題と言えるでしょう。
参照:NEC『服薬支援ソリューション 〜ICTで服薬アドヒアランス向上を実現〜

睡眠測定

睡眠は、健康を維持するために非常に重要な要素です。
年齢や性別を問わず、現代人の睡眠不足は深刻であると言われます。日本人の7割が満足に睡眠を取れていないとの調査もあるほどです。昨今は睡眠の重要性に気づき、十分な睡眠時間の確保を目指す方も多くなってきました。
しかし、睡眠の状態は非常に曖昧で主観的な要素が含まれます。本人はよく寝たと思っていても実は睡眠の質が確保できておらず、体が十分に休まっていないこともあるでしょう。

  • 睡眠の時間
  • レム睡眠・ノンレム睡眠の時間
  • いびき
  • 寝返り

スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは、上記のようなデータを記録できます。
記録したデータから客観的に睡眠の状態を確認すると、自身の睡眠の状況を振り返ることができるのです。特にいびきの状態などは睡眠時無呼吸症候群の判定にも活用できます。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に突然呼吸が止まってしまう病気です。脳卒中、狭心症、心筋梗塞などの合併症を併発する危険が高まり、糖尿病、高血圧症などへの悪影響も報告されています。睡眠測定のデータを医療機関に提出すれば、さらに詳しく症状を診断するきっかけにもなるでしょう。
参照:兵庫医科大学病院『もっとよく知る!病気ガイド

自社に合ったデジタルヘルスケアの取り組みを行うために

デジタルヘルスケアは、技術革新に伴い今後も市場のさらなる拡大が期待されています。デジタルヘルスケアとDXとの関係は切っても切れません。
「自社に適した取り組みを効果的に進めたい」とお考えの場合には、まずはDXの支援や開発経験が豊富なベンダーに相談するのが良いのではないでしょうか。

【あわせて読みたい】おすすめ関連資料

DX進め方ガイドブック
>DXプロジェクトを検討している担当者の方に向けて、失敗しない社内体制の構築から開発リソース確保までを網羅して解説しています。

▼関連記事

この記事を書いた人
中垣圭嗣

WebメディアでPGから管理職まで幅広く経験し、Wakka Inc.に参画。Wakka Inc.のオフショア開発拠点でラボマネジャーを担当し、2013年よりベトナムホーチミンシティに駐在中。最近では自粛生活のなかでベトナム語の勉強にハマっています。

  • ホーム
  • ブログ
  • デジタルヘルスケアとは?政府が目指す取り組みから推進事例まで解説