医療業界におけるDXの必要性とは?課題や取り組み、推進事例を解説

2023.02.13
DX・システム開発
中垣圭嗣
医療業界におけるDXの必要性とは?課題や取り組み、推進事例を解説
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こんにちは。Wakka Inc.のベトナムラボマネージャーの中垣です。
IT化、DX化が非常に遅れていると言われている医療業界。しかし昨今、医療業界でもDXが浸透しつつあるのをご存知でしょうか。
今後の医療のあり方を実現、維持するためにDXの推進は必要不可欠と言われています。医療関連のDX市場規模は2030年頃には1兆円規模を超えると予想され、多くの企業の注目を集めているのです。
本記事では、医療業界が目指すDXとその課題、推進事例を解説いたします。
医療業界におけるDXについてご興味のある方は、ぜひご参考になさってください。

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目次

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医療業界におけるDXとは

医療業界におけるDXとは、患者がどこにいても、公平で適正な医療を受けられる環境の整備を指します。
本来DXとは、既存の業務にデジタル技術を導入し、業務のあり方を大きく変革させる意味で使われています。最終的には、新しいビジネスモデルを生み出したり、働き方改革によって企業風土を変革したりするのがDXの目標です。
一般企業では企業の優位性や競争力を高めるためにDXを推進していますが、医療業界ではDXの持つ意味合いがやや異なります。
その理由は日本では国民皆保険制度が導入されているからにほかなりません。

国民皆保険制度の基本的な考え方はフリーアクセスです。
患者は自分の意志でどの医療機関でも自由に選べるため、国は診療所や病院、調剤薬局などに、競争力や優位性の確保は求めません。
どのような医療機関であっても医療を提供できる公平性や、効率性などが医療業界のDXに求められるのです。医療業界のDX実現に向けて、厚生労働省は『医療DX令和ビジョン2030』(PDF)で3つの柱を策定しています。

共通プラットフォームの創設

医療DX令和ビジョン2030のひとつ目の柱は、全国医療情報プラットフォームの創設です。
現在マイナンバーカードを利用した、オンライン資格確認システムのネットワークが拡充しつつあります。
2023年4月から本格的に運用が開始されるため、病院、診療所、調剤薬局に資格確認用の端末が設置されているのに気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。
全国医療情報プラットフォームは、バラバラになりがちな患者情報を集約し、活用するのが目的です。まずはマイナンバーカードを活用し、患者の情報を全国医療情報プラットフォームに集約します。
現在は保険証の情報や服薬情報などに留まっていますが、今後は

  • 診療報酬明細書(レセプト)
  • 予防接種の情報
  • 検診情報などの集約
  • 電子処方せんの発行

などの機能を実装する予定です。
情報を集めるだけでなく、患者本人が医療情報を確認できるようになるとより利便性が高まります。
「レセプトの管理は診療報酬支払基金」「検診情報の管理は病院」など管理する団体が別々の場合、情報の開示請求をするのに多くの手間や時間が掛かってしまうでしょう。
しかし、医療情報をクラウドに集約すれば、自治体や介護事業者なども含め、患者の必要な情報を必要なときに瞬時に閲覧、共有できるようになるのです。
全国医療プラットフォームの創設により、医療サービス全体の質向上、業務の効率化を目指しています。

電子カルテの標準化

医療DX令和ビジョン2030の二つ目の柱は、電子カルテの標準化です。
現在電子カルテの導入率は一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%*です。政府は2030年までに電子カルテの普及率100%を目指しています。
電子カルテを導入すると、レセプト請求の簡素化、作業の効率化など様々なメリットが見込めますが、導入に踏み切れずにいる医療機関も少なくありません。

そこで電子カルテ未導入の医療機関向けに、クラウドベースの安価な電子カルテの提供を目指しています。
「紙ベースでカルテを管理していたので、いまさら電子カルテ導入は難しい」
「システムの導入費用がネックになっている」
医療機関が電子カルテの導入をためらう理由は様々ですが、補助金や環境整備などにより、今後は徐々に電子カルテが普及していくでしょう。
標準電子カルテに求められる機能は、全国医療情報プラットフォームへの情報提供や共有機能です。
情報交換のため標準コードは、国際規格となりつつあるHL7FHIRを活用します。
先行して

  • 検査情報を含む診療情報提供書
  • 退院時サマリー
  • 検診結果報告書

を情報交換の対象として定め、今後も情報を拡充予定です。
薬剤の情報や、診療報酬の情報などのコードを厚生労働省が標準化し、どのベンダーが開発した電子カルテであっても情報の共有がなされていきます。
また電子カルテに保存されているデータを、最新の医療や創薬のために活用することも検討されています。電子カルテの標準化は、業務の効率化、情報の共有だけでなくビッグデータの活用まで視野に入れているのです。

※出典:厚生労働省『電子カルテの普及率』(PDF)

診療報酬改定時の負担軽減

医療DXはレセプト計算の業務負担の軽減にも大きく寄与するでしょう。診療報酬の改定時期は2年に一度です。
施工前年の9月に改定の内容が議論され、2月上旬に概要が定まり、4月1日に改定が施工されます。
改定の内容が発表されたあとに解釈の内容をベンダー側が把握し、プログラムに落とし込まなければなりません。

ベンダー各社は2月から3月31日までの短時間で、診療報酬の改定に対応しないといけないため莫大な業務負担が生じます。
改定時にはベンダーだけでなく、病院や診療所、薬局など窓口で会計を行う側にも負担が掛かります。普段行わない業務を強いられるため、患者の待ち時間延長にもつながってしまうのです。
そこで厚生労働省、支払機関、ベンダーが協力して共通算定モジュールを作成する予定です。共通算定モジュールが導入されれば、改定の際の更新作業が簡素化され、ベンダーの負担を軽減できます。
医療会計、ベンダー負担の軽減が、ひいては患者の負担軽減にもつながるため、共通算定モジュールの作成は重要と言えるでしょう。

DX進め方ガイドブック
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医療業界の現状と課題

厚生労働省が目指すDXと現在の医療業界が抱える現実的な課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
医療業界には様々な問題がありますが、特に重要とされている課題を取り上げます。

2025年の崖

医療業界も他業種と同じように2025年の崖に直面しています。
2025年の崖とは、経済産業省が『DXレポート』で提示した、日本のITシステムに対する警鐘です。
具体的には、「日本企業がDXを推進しなければ、2025年以降の5年間で、最大で年間12兆円の経済損失が生じる」と予測されています。

医療業界での2025年の崖は、システムへの対応はもちろんですが、少子高齢化に伴う医療費や介護費の増大を指摘しているものです。
2025年にはいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に該当し、後期高齢者を支える現役世代の負担は急激に増大するでしょう。
2022年現在では後期高齢者の窓口負担割合は原則1割から2割で、残りは税金などから拠出されています。これ以上負担が増えると、後期高齢者を支える現役世代は限界に達しかねません。そのため、限られた財源の中で効率よく医療を提供していく必要があります。
増え続ける医療費の適正化や、支え手の負担軽減は重要な課題で、これこそが医療業界の2025年の崖だと指摘されています。

医療従事者の不足

少子高齢化に伴い、医療従事者の不足も深刻です。
現在、諸外国に比べ医師の数が少ないと指摘されていますが、医師だけでなく、看護師、介護従事者の数も問題視されています。
医療の担い手が少なくなると医療ニーズの需要と供給のバランスが崩れ、医療崩壊にもつながりかねません。
ただでさえ担い手が少ない状況ですが、アナログな運用に対応するための従業員への負担はいまだに残ったままです。医療従事者の負担を軽減して医療崩壊を防ぐためにも、DXへの取り組みは緊急の課題と言えるでしょう。

人口の地域格差

都心部と過疎地での人口格差は、医療における課題のひとつです。
東京などの都心に人口が集中する一方、地方では人口の減少が深刻で、少子高齢化に伴う高齢者の増加も社会問題化しています。
人口の多い地域では病院や医療提供も充実していますが、過疎化が進んでいる地域では医療機関が少なく専門的な医療を受けられないなどの医療格差も生じています。
過疎地では高齢化が進んでいるため、脳血管障害や虚血性心疾患などの緊急性の高い疾患が発生した場合、即応できる体制を整えるのが難しい場合もあるでしょう。
どこに住んでいても公平な医療を受けるために、DXの技術を導入し、医療格差を是正する必要があります。

ペーパーレス化

ペーパーレス化への対応も、医療業界の課題として挙げられます。医療機関で発行される領収書、処方せんなどは紙ベースで、ペーパーレス化が進んでいません。
カルテの電子化やレセプトの電子請求の義務化、お薬手帳の電子化など完全なペーパーレス化への気運は徐々に高まっているように見えます。
しかしいまだに紙カルテでの管理、レントゲンのフィルム保管などアナログな運用が残っています。完全なペーパーレス化への対応には、環境が十分に整っていないのが現状です。
ペーパーレス化はDX実現の第一歩。完全なペーパーレス化への対応が早急に求められています。

医療業界にDXを取り入れるメリット

医療業界でDXを実現できた先には、患者だけでなく、現場で働く従業員にも大きなメリットがあります。しかし、DXの実現はハードルが高いと思われる方も多いのではないでしょうか。
費用の問題だけでなく、ITリテラシーの向上やIT人材の確保など越えるべきハードルが数多くあります。しかしハードルとメリットを天秤にかけた場合、やはりDXは推進したほうが良いとの結論に至るはずです。
具体的にどのようなメリットがあるか確認していきましょう。

業務効率化

DXを取り入れる最大のメリットのひとつは、業務の効率化です。
現在使っている紙カルテを電子化できれば、保管場所の確保、カルテの持ち運び、検索などの管理コストを削減できます。
手書きの指示では曖昧なところもあり、再度聞き返さないといけないなどの情報伝達の不備も解消できるのです。カルテの検索や手書きの指示の訂正などは、1名の患者であればそこまで時間は掛からないでしょう。
しかし数秒だけでも短縮できれば、業務全体としては相当な業務時間を短縮できるはずです。
短縮できた業務時間は患者へ活用できるため、医療の質向上を目指せます。

さらに業務効率化は従業員の業務負担の軽減につながり、ひいては離職率の改善など従業員満足度の向上にもつながるでしょう。
人材の確保は企業戦略の根幹です。医療業界でも例外はなく、人材の確保は最優先課題のひとつに挙げられます。
医療の質向上や人材確保において、DXの推進による業務の効率化は、もっともわかりやすいメリットと言えるのではないでしょうか。

BCP対策

BCP*の強化にもDXは有効に働きます。BCP対策の肝はクラウド化。クラウド化により、どこにいても医療データにアクセスできる環境が実現します。
紙カルテやオンプレミス型の電子カルテは病院にいなければ確認できません。
医療機関は台風や地震などの自然災害で被害を受けてしまっても、医療活動に支障をきたさないように早期の復旧が求められます。
紙カルテやオンプレミス型のデータは、PCの破損などによりデータがロストしてしまうと復旧は難しいでしょう。一方でクラウド上に保管されているデータは、ネット環境さえあればどこからでもアクセスできます。
医療機関は有事の際にも医療活動の継続が求められるため、いざというときの備えにDXの推進は非常に有効です。

※BCP……Business Continuity Plan:事業継続計画

ネットワーク拡充によるサービスの質の担保

DXを推進すれば、関係医療機関が閲覧できる医療情報ネットワークも構築可能です。
単独の医療機関だけでなく、病院、調剤薬局、介護施設などで患者の情報を共有します。患者情報の共有は、在宅医療でも有効に活用できるでしょう。
現在、入院期間を短縮して在宅で治療、療養をする在宅治療が推進されています。在宅医療にはスタッフ間の協力が必須ですが、協力には患者情報の共有が欠かせません。
万が一、病状が急変して入院が必要になった場合にも、ネットワークによって患者情報の提供がスムーズになり、質の高い医療を提供できるでしょう。

  • 検査の種類
  • 診断の結果
  • 投薬の有無や種類
  • 服薬情報
  • 薬品の副作用歴

これらの情報を一律に共有できれば、過剰な検査、投薬も防げるので医療費の抑制にも役立つのです。

医療業界におけるDXの推進事例

DX推進が遅れていると言われる医療業界でも、DXが導入され、実際の業務に生かされている事例は少なくありません。「具体的にどのような技術が取り入れられているか」を詳しく見ていきましょう。

オンライン診療・オンライン服薬指導

オンライン診療・オンライン服薬指導とは、ビデオ通話を活用した診療や服薬指導を指します。
オンライン診療は外来、入院、在宅に次ぐ第4の診療スタイルとして注目されています。感染症の流行による対面での診療の難しさから急速に普及し始めました。
発熱外来などで感染の可能性のある患者と対面で診察すると、医師の感染リスクを高めてしまうため、オンラインでの診療が有効活用されています。

画面上だけの診察になるため、医療の質の担保など課題感はまだ残されていますが、今後様々なシチュエーションで活用されるでしょう。
医療スタッフがどこに住んでいても診療から投薬までをオンラインで完結できるため、特に過疎地域での診療に期待が寄せられています。
診療報酬の問題や患者側のITリテラシーの向上など様々な課題をクリアしなければなりませんが、限られた医療資源を活かすために欠かせないツールとなっていくでしょう。

参考:CLINICS『オンライン診療で実現する医療現場のデジタルトランスフォーメーション』

AI問診

AI問診は今まで紙で記載していた問診票に変わるDX技術です。
「体の不調を感じているが、どの診療科目を受診すれば良いかわからない」などの悩みを経験された方も多いのではないでしょうか。
AI問診は質問に答えていくことでAIが罹患している恐れのある疾患を推定し、最適な診療科目を示してくれるサービスです。紙の問診票では把握しきれない疾患の可能性を割り出せるため、医療の効率化に役立つでしょう。
感染症対策としてAI問診を取り入れている自治体もあり、オンライン診療にも親和性の高いDX技術です。

参考:Medical DX『普及が進みつつある日本のAI問診の現在地』

医療業界のDX化は経験豊富なベンダーを活用しよう

DXを効果的に進めるには、自社に合ったツールやシステムを導入するのが大切です。医療機関によって解決するべき課題は異なります。
「自社に合った解決策やツールの選び方がわからない」と悩まれる場合には、まずは開発経験が豊富なベンダーに相談するのが良いのではないでしょうか。
オーダーメイドのフルスクラッチ開発やシステム構築を専門とするベンダーであれば、「どこから手を付ければ良いかわからない」といった悩みにも寄り添った提案が可能です。

DX進め方ガイドブック
>DXプロジェクトを検討している担当者の方に向けて、失敗しない社内体制の構築から開発リソース確保までを網羅して解説しています。

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この記事を書いた人
中垣圭嗣

WebメディアでPGから管理職まで幅広く経験し、Wakka Inc.に参画。Wakka Inc.のオフショア開発拠点でラボマネジャーを担当し、2013年よりベトナムホーチミンシティに駐在中。最近では自粛生活のなかでベトナム語の勉強にハマっています。

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