DXの意味とは?IT化との違いからメリット、課題までわかりやすく解説

2022.11.21
DX・システム開発
中垣圭嗣
DXの意味とは?IT化との違いからメリット、課題までわかりやすく解説
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こんにちは。Wakka Inc.のベトナム拠点ラボマネージャーの中垣です。
不確実性の時代において、日本の企業は今後の競争力維持・強化のためにDXを迅速に推進しなければならないと言われています。しかし、
「DXはなんとなく聞いて知っているつもりだが、IT化やIoTとはどう違うのだろう?」
「うちのような中小企業でもDXは進められるのだろうか?」
といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、

  • DXの定義
  • DX化とIT化の違い
  • DXと他の類似キーワードとの違い
  • DX化で得られるメリット
  • DXを推進する上での課題

といった内容を詳しく解説していきますので、ぜひともご参考になさってください。

Wakka.IncではDXプロジェクトを検討している担当者の方に向けて、失敗しない社内体制の構築から開発リソース確保までを網羅して解説しているDX進め方ガイドブックを無料で配布しています。ぜひご確認ください。

目次

DX化の意味

DXという言葉を耳にするようになってから随分と時間が経ち、IT用語として定着してきました。
しかし、キーワードとしては耳にしていても、意味や定義についてはあいまいに捉えている方もまだ多いようです。このパートではまず、DXの意味と用語の定義ついて詳しく解説します。

そもそもDXとは?

DXとはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語です。transformationは変身、変革などと訳されるため、DXを直訳するとデジタルによる変革となるでしょう。
デジタル技術を駆使することによって、人々の生活やビジネスのあり方を変革していくことを意味しています。
DXは、スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマンが、2004年に初めて提唱した概念と言われています。
また、経済産業省でも2018年にデジタルトランスフォーメーションを推進するためのDX推進ガイドラインを策定し、その中でDXを次のように定義しました。

”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”

引用:経済産業省『デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)

DX化とは?

DXの意味は、人々の生活やビジネスのあり方を変革していくことだとお伝えしました。つまり、DXとは技術そのものを指す用語ではなく、技術を利用した先にある目的を表す言葉なのです。
では、DX化とは何を意味するのでしょうか?
DX化とは、DXの目的である、人々の生活やビジネスのあり方が変革された状態だと言えます。

  • 顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を果たした状態
  • 業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性が確立された状態

経済産業省のDX推進ガイドラインに沿っていえば、上記の2つがDX化です。

DX化とIT化の違い

ここまでは、DXの意味と定義について解説してきました。次に、DXやDX化と混同しがちな他の用語との違いについて見ていきましょう。
IT化という用語がよく使われますが、DX化とどう違うのでしょうか?また、他にも

  • IoT
  • ICT
  • CX
  • UX
  • デジタイゼーション
  • デジタライゼーション

など、数多くの類似した用語があります。それぞれの意味と、DXとの位置づけの違いについて解説します。

IT化とは?

IT化という場合は人の手作業をシステム化する、アナログ情報をデジタル化して取り扱うことを指します。
開発の度合いにもよりますが、IT化とはシステム化、デジタル化によって業務を効率化することが目的になる場合が多いでしょう。
もちろん業務の効率化に留まらず、新しいビジネスを創出するためのシステムなど、先進的な事例も以前からありました。

しかし、多くのシステムは業務を効率化する以上の成果を出せていなかったのも事実でしょう。個別の業務や部門向けの部分最適にとどまって、企業全体としてはビジネスを変革するには至っていないケースが多かったものと思われます。
このような背景から、「単にIT化するだけでなく、さらにビジネスを大きく変革するためにITを活用しよう」ということで、DXが提唱されるようになってきたのです。

IT化とDX化は何が違うか?

前述したように、IT化の場合は個別の業務を効率化する、つまり手作業の負荷を軽減することが目的になっているケースが多いようです。もちろん、業務の効率化もDX化に向けた1つのステップには違いありません。
しかし、DX化という場合は業務の効率化に留まらず、

  • さらに大きなゴール
  • ビジネスモデルの変革
  • 競争優位性の確立

といった成果に到達した状態を指すのです。つまり、IT化とDX化は手段と目的の関係にあります。

  • DX化:ビジネスモデルの変革、競争優位の確立という目的を果たした状態
  • IT化:デジタル技術を駆使し、業務をシステム化することにより効率化する

DX化を達成するための枠組みの中で、1つの要素としてIT化があると言えるでしょう。

IoT、ICT、デジタライゼーション……混同しがちな他の用語との違い

DXと似た概念を持ち、混同しがちな用語はIT化以外にもいくつかあります。ここではそれぞれの用語の意味と、DXとの違いについて解説します。

IoT

IoT(アイオーティー)とは、Internet of Thingsの略語です。インターネットに接続して情報通信をするデバイスといえば従来は主にパソコンでしたが、今は

  • スマートフォン・タブレット
  • 家電製品
  • 自動車

など、あらゆるモノをインターネットを介した通信により制御できる技術が発達しています。あらゆるモノがインターネットを通じて有機的につながる技術が、IoTと呼ばれる先端技術です。
具体的には、家電製品などのモノにセンサーを装着し、センサーが計測した数値情報をサーバーが専用アプリで取り込みます。
取り込んだ情報をサーバー側のアプリで分析し、制御プログラムを稼働させることによって、今度は繋いでいるモノに対して指示を返す。こうしてモノの動きを制御できるのです。
例えば、温度センサーが発信する温度情報を取り込み、ある一定の温度を超えると温度を下げるエアコンの機能があげられます。DXとの関係でいうと、IoTもやはりDXのための手段の1つです。
まず目的としてDXがあって、そのゴールに到達するための手段として、デジタル技術であるIoTを利用するのです。

ICT

ICTも随分と前から見かける用語ですが、そもそもITと何が違い、DXとはどのような関係にあるのでしょうか?ICTとはInformation and Communication Technologyの略で、直訳すると情報通信技術を意味します。
一般によく使われるITは情報技術全般を指していますが、ICTは特にコミュニケーションの部分を強調した用語です。
技術そのものを指すだけではなく、メールやチャット、SNSなどのコミュニケーションツールと、コミュニケーションに使用する技術の活用方法も含んでいます。

ICTも、DXとの関係でいうと手段の1つです。
ICTの活用により業務を効率化して、お客様との良好な関係を築いていきます。
コミュニケーションの活性化を通じて、最終的にはビジネスモデルの変革や競争優位性の確立を達成していくのがDXなのです。

CX

CXとはCustomer Experienceの略で、顧客体験のことです。
顧客体験とは、お客様が商品に接する流れの中で体験するすべてを指しています。お客様が商品に接する流れとは、

  • 商品やサービスに興味を持つ
  • 調査・検討を重ねて商品を購入する
  • 購入した商品を使用する
  • 使い方の説明や故障の対応など、購入後のサポートを受ける

のように、お客様が商品を知ってからアフターサポートまでのすべての流れです。
DXとの関係でいうと、CXを向上させることはDXが目指す目的の1つとなるでしょう。CXを向上させることは、企業の競争優位性を築くことに繋がります。
例えば、IoTやICTなどのデジタル技術を駆使してCXの向上を試みるといったDXの方向性が考えられるでしょう。

UX

CXと似た概念でもう1つ、UXがあります。UXとはUser Experienceの略で、ユーザー体験のことです。
CXが、お客様が商品に接する流れ全体を指すのに対して、UXはある1つの接点におけるユーザー体験を指していることが多いようです。
例えば、商品を選ぶ際にお客様は、自分の欲しい商品について次のようなことを調べるでしょう。

  • 必要な機能を搭載しているか?
  • 性能は高いか?
  • 種類は豊富か?
  • 価格は適切か?

これらすべてが、商品を選ぶ際にお客様が得る1つのユーザー体験です。
また、サポートセンターの対応などのアフターフォローも、1つのUXと言えます。
つまり、UXはお客様と商品のある1つの接点で得る体験であるのに対して、CXはお客様と商品の接点すべてを通して得る体験という違いがあります。DXとの関係についてはUXも同じで、UXの向上はDXの目指す1つのステップと考えて良いでしょう。

デジタイゼーション

あまり聞きなれないかもしれませんが、DXと似た用語にデジタイゼーション(Digitization)があります。デジタライゼーション(Digitalization)という別の用語もあり、意味の違いがわかりにくく混同しやすいのですが、どちらもデジタル化のステップを表す言葉です。
デジタル化のステップとしてはデジタイゼーションが最初のステップで、アナログ情報や物理データをデジタル化することを意味します。
業務全体をデジタル化するところまでは進んでおらず、例えば今まで紙で印刷していた文書を電子化して管理することなどがこのステップにあたります。

デジタライゼーション

デジタイゼーションと混同しやすいのが、デジタライゼーション(Digitalization)です。デジタライゼーションは個別の業務プロセスをデジタル化することで、デジタイゼーションの次のステップと言えます。
業務プロセス全体をデジタル化することで、デジタル化された業務のデータを利用して新たな価値を見出せます。全社レベルではなく、業務や部門単位で個別のデジタル化が進んでいる状態です。
デジタライゼーションがさらに進み、新たなビジネスモデルの創出、競争優位性の確立まで推進できればDX化の達成といえるでしょう。
その意味でデジタイゼーション、デジタライゼーションとDXは、ゴールへ向かう途中のステップとゴールの関係にあります。

類似用語一覧

これまでに解説した用語の一覧を簡単にまとめておきます。

用語概要
DX化顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を果たした状態業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性が確立された状態
IT化システム化、デジタル化によって業務を効率化すること
IoTスマートフォンをはじめ家電製品や自動車など、あらゆるモノがインターネットを介した通信により制御できる技術
ICTIT(情報技術)のうち、特にコミュニケーションの部分に特化した技術、および技術の活用方法
CXCustomer Experienceの略。=顧客体験
お客様が商品に接する流れの中で体験するすべてのこと
UXUser Experienceの略。=ユーザー体験
CXが、お客様が商品に接する流れ全体を指すのに対して、UXはある1つの接点におけるユーザー体験を指していることが多い
デジタイゼーションアナログ情報や物理データをデジタル化すること
デジタライゼーション個別の業務プロセスをデジタル化すること

今なぜDX化が必要なのか?

近年、DX化が注目されている理由として、企業を取り巻く社会環境の急激な変化があると言われます。
「企業を取り巻く社会環境が急激に変化しているといわれているが、具体的にはどのような変化が起きているのか?」このような疑問をお持ちの方も少なくないかもしれません。
また、企業を取り巻く社会環境の急激な変化に対応するために、なぜDX化が必要と考えられているのでしょうか。具体的に解説していきます。

スマートフォンやSNSの普及による消費行動の変化

インターネットが一般的に使われはじめたのは1990年代に入ってからですが、2000年を過ぎるとパソコンとインターネットの普及も一段落し、インターネットの利用が定着してきました。
変化の兆しが見えはじめたのは2005年を過ぎた辺りからでしょうか。SNSで有名なTwitterがサービスを開始したのが2006年。Apple社が初代iPhoneを発売したのが2007年です。ここからインターネットの世界は大きな変化を遂げることになります。
Twitterをはじめ、FacebookやInstagramなどのSNSが登録者数を大きく増やし、インターネット上のコミュニケーションはSNSが中心になっていきました。そして、SNSの急激な広がりに一役買ったのがスマートフォンの普及です。

それまで、インターネットを利用する端末(媒体)はパソコンが主流でした。
しかしiPhoneの発売をきっかけとして急激に普及したスマートフォンによって、この勢力地図は一気に書き換えられたのです。スマートフォンとSNSが一般に広く普及したことは、消費者の行動にも大きな影響を与えました。
ECサイトや情報サイトなどはこぞってスマートフォンの対応を進めたため、手元にスマートフォンがあるだけで情報収集から買い物までできるようになりました。
企業や店舗は消費者の行動の変化に対応して、営業や販売の手法を変革することが迫られています。

デジタル化によるビジネスモデルの進化

ITの導入でデジタル化が進んだことや、スマートフォンとSNSが普及したことにより、デジタルデータが大量に蓄積されるようになりました。
大量のデジタルデータが蓄積されることで、データを扱う技術も大きく進歩しています。DWH(データウェアハウス)※の普及、ビッグデータの分析技術向上などが代表例です。
データを扱う技術の進歩により、企業は業務システムを稼働させる中で作成されたデータを蓄積し、分析するようになりました。
データを分析することで例えば、今までは認知できていなかったお客様の行動が浮かび上がってくるようになり、これがビジネスモデルの進化に繋がっています。
※DWH(データウェアハウス)……目的に応じて使えるように膨大な量のデータを整理・格納するシステム

少子高齢化による働き方の変化

少子高齢化によって人手不足が進むことで、社会的にも経済的にもさまざまな変化が出てきました。

  • 高齢者の雇用
  • 子育て中の社員の継続雇用
  • 外国人の雇用促進
  • 生産性の向上
  • テレワークの推進

働き方を改革する動きが多様化する中、人手不足を補うために生産性を向上させることは、DX化に向けた1つの動機になっていると考えられます。

DX化を推進することで得られるメリット


DX化には、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここからは、DX化を推進することで得られるメリットを3つご紹介します。

生産性が向上する

DX化は最初のステップであるデジタル化を進めるだけでも、業務が効率化されるでしょう。
また、RPAツール※を利用することで、作業を自動化するだけではなくヒューマンエラーを防止できます。作業の手戻りがなくなることで業務の効率が上がり、生産性の向上も見込めるでしょう。
DX化の途上でもある程度の生産性向上は見込めますが、最終ゴールであるビジネスモデルの変革や競争優位性の確立が達成できれば、売上や生産性の大幅な向上が期待できます。
※RPAツール……RPAとはロボティック・プロセス・オートメーション、つまりAIや機会学習を活用して人間の作業を代替する取り組み。RPAツールはRPAを活用したツールを指す。

競争力が強化される

DXを推進する中で、お客様や社会のニーズをもとにして製品やサービス、ビジネスモデルの変革を具体的に検討していくことになります。
現時点のニーズだけでなく、「10年、20年といった長期的な視点でどのようにニーズが変化していくのか?」を踏まえた、長期的な視点での検討が必要なのです。
DXを推進することで長期視点での戦略が明確になっていくため、変革したビジネスモデルや製品・サービスによって他社と差別化できるようになるでしょう。
もちろん、うまくいかなければ仮説検証を繰り返しながら改善を進めていくことになりますが、差別化がうまくいけば企業としての競争力は大きく強化されます。

変化へのスピーディな対応力が得られる

SNSやスマートフォンの普及、働き方の変化などによって、ビジネスのあり方は大きく変化しています。そして、その変化は今後も続く可能性が高いです。
したがって、これからの企業や組織、ビジネスのあり方は変化に対してスピーディに対応できることが求められます。
DXを推進することで、めまぐるしく変化する社会環境、経済環境への対応力が得られるでしょう。

DXを推進する上での課題

ここまで、DX化が必要とされる理由、DXを推進することで得られるメリットについて解説してきました。DXを推進するとひと口でいっても、実際にはそう簡単に進められることばかりではありません。
このパートでは、DXを推進する上での課題について解説していきます。

2025年の崖

経済産業省が公表しているDXレポートでは、

「DXの必要性については多くの経営者が理解しているが、推進するにあたって多くの課題がある。もしこの課題を克服できず、結果的にDXが進まなかった場合は2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる」

引用:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

として損失額を試算し、2025年の崖と表現して警鐘を鳴らしています。

(出典:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』)

横軸を年、縦軸を経済効果(金額)としたグラフで表した場合、2025年以降は右肩下がりで崖のように落ち込んでいくグラフになることから、2025年の崖と表現されているのでしょう。
では、崖から転げ落ちないためにはどのような課題を克服すれば良いでしょうか?

レガシーシステム

まず、既存システムがレガシーシステム化しているため、DXの足かせとなっている問題があります。レガシーシステムとは、

  • 技術面の老朽化
  • システムの肥大化・複雑化
  • ブラックボックス化

などの問題を抱えており、結果的に経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステムと定義づけられています。
「既存システムの足かせをいかに解消するか?」が、DXを推進する上で大きな課題となっている企業も少なくありません。レガシーシステムの本質は、システムがブラックボックスと化してしまったことにあると考えられています。
レガシー化は単に技術面の老朽化によるものだけではなく、不十分なマネジメントによって引き起こされる可能性も高いのです。
たとえ古い技術を使用していても、適切なマネジメントによってメンテナンスを実施していれば、ブラックボックス化を防げる場合もあります。1逆に、最新のクラウド技術を利用していても、マネジメントが不適切であれば、時間の経過とともにレガシー化は起こりうるのです。

  • 刷新後のシステムが実現すべきゴールのイメージを共有する
  • 不要な機能を廃棄し、可能な限りシンプルな構造にする
  • システムの機能をできるだけ小さい単位に分割してモジュール化する
  • ブラックボックス化を防ぐ適切なマネジメント体制を確立する

既存システムの足かせを解消するためにはシステムの刷新が必要です。
システム刷新にあたって上記4点に留意して、せっかく刷新したシステムを再レガシー化させないようにしましょう。

DX化の推進にあてる人材の確保

システム部門の人材不足は、DXを推進したい企業にとって深刻な問題です。ITに精通していてプロジェクトマネジメントができる人材はなかなかいません。
特にDX推進にあたっては業務プロセスを把握し、周辺システムとの関係も把握した上で「将来のシステムがどうあるべきか?」のビジョンを描くことが重要です。
適切な人材を確保するためには、長期的な視点で将来を担う人材を育成するとともに、短期的には開発ベンダーなど外部の協力を得ることも検討すべきでしょう。足かせとなっていた既存システムを刷新できれば、既存システムの保守に張りついていた人材をDX推進に充てることも可能です。

経営層の強いコミットメント

DXの推進には経営層の危機意識と強いコミットメントが必要ですが、DXに対する理解が浅いと現場任せになりがちです。
現場が抱える課題や問題意識は、部署や業務によってさまざまです。現場任せでは取り組み内容がバラバラになってしまったり、それぞれの目指す方向がズレてしまったりして、DXを効果的に進められません。
経営層が強いリーダーシップを発揮してプロジェクトを主導していくことが大切です。経営層の理解を得られていない場合は、DX化に向けたプロジェクトを進める前に十分に協議するべきでしょう。

事業部門の当事者意識

事業部門が業務に忙しく、なかなかプロジェクトに参加できないケースがあります。
しかし、DX化を成功させるためには事業部門が当事者意識を持ってプロジェクトに関わり、仕様を決定していくことが欠かせません。
したがって、プロジェクトメンバーに事業部門の担当者を任命し、仕様の決定やできあがったシステムの受け入れを、責任を持って実施する体制にしておくべきでしょう。
事業部門が当事者意識を持って取り組まず、システム部門や開発ベンダーに任せきりにしていると、できあがったシステムが事業部門の満足できるものにはならないので注意が必要です。

システム部門の要件定義力

前述のとおり、自社でDXを推進できる担当者が不足しているケースは多いでしょう。
その場合は開発ベンダーと協調してDX化を進めることになりますが、「最終的な要件定義がしっかりと自社で確定しているか?」は、依頼時に特に確認したいポイントです。
開発ベンダーを信頼しているからといって、提案を受けた内容を鵜呑みにしてはいけません。将来のシステムがどうあるべきかについては、開発ベンダーの協力を得て策定することはあっても、最終的には自社で責任を持って決定すべきです。

システムを評価するための仕組み

DX化は、システムが完成すれば達成できるわけではありません。完成したシステムを利用して業務を遂行し、ビジネスが想定通りに回ることによって初めて、DX化が達成されたと言えるのです。
DX化が達成できたかどうかを知るためには、DX化に対する投資を経営の観点から評価する仕組みを持っていることが大切です。
評価の仕組みがあることで、今後の改善やさらに発展したDX化の達成にも繋がっていくでしょう。
DXの取り組みに終わりはありません。これまで構築してきたDXの仕組みは、今後の変化に対してスピーディに対応する力になるのです。

DX化の事例

このパートでは、積極的にDXを推進し、成果を上げている企業の事例をご紹介します。

富士フイルム株式会社

富士フイルム株式会社では、DXを推進することでデジタル画像やAI技術を駆使した新規事業を展開しています。
ただデジタル技術を組み合わせるだけでなく、既存のモノとモノから生み出される情報を紐づけて、「お客様にとっていかに価値ある形にしていくか?」がよく考えられているようです。
DX推進によって生み出した新規事業を展開することで、お客様の満足度も向上しているのではないでしょうか。富士フイルム株式会社は、2000年ごろからのフィルムからデジタルへの変革期に大きな危機を体験しています。
当時の体験から、変革しないことの危機感が社内で共有されており、DX推進の大きな原動力になっているのでしょう。また、DX推進の啓発期間を設け、

  • 他社事例の研究
  • デジタル活用の勉強会

などの啓発活動を通じてDXの理解を深めてきたため、DX推進の文化が社員によく根づいているようです。
参考:独立行政法人 情報処理推進機構『デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査』(PDF)

株式会社山本金属製作所

株式会社山本金属製作所は、経済産業省のDX Selection 2022でグランプリを受賞した企業で、大阪府で金属切削加工業を営んでいます。
従業員数は300名弱の中小企業ですが、中小企業でもこれだけ力強くDXを推進できるお手本として大変参考になります。山本金属製作所は、コア技術である

  • 精密加工技術
  • ロボットシステムインテグレーション
  • センシング制御・計測評価

を軸としながらも、さらにデジタル技術を駆使して独自のサービスを次々と展開。

  • 工作機械やロボット、周辺機器を連携するソフトウェア
  • それぞれの機械加工に必要なノウハウや情報を収集するための様々なデバイス

を自ら開発しているのは特筆すべき点です。コア技術を活かしながらも、新たなコンセプトのもとでサービスを進化させています。グランプリの受賞スピーチの中で、代表取締役社長の山本憲吾氏は次のように述べました。

「機械加工現場にイノベーションを起こすことを、自分たちの唯一の存在価値として事業活動をしています」

この言葉を聞いただけでも、社長がトップダウンで力強いリーダーシップを発揮して、DX推進を先導している状況を感じ取れます。生産技術を担う人材育成を最終的なミッションとしており、今後の方向性にも迷いがありません。
参考:経済産業省『DX Selection 2022』(PDF)

ヤマトホールディングス株式会社

ヤマトホールディングス株式会社も、継続的にDXを推進している企業の1つです。
現在推進中の、中期経営計画により策定したテーマで一定の成果が見られたことから、YAMATO Next 100と呼ばれる新たな中長期の経営グランドデザインが策定されました。
これは、お客様、社会のニーズに応える新たな物流エコシステムの創出を通じて、豊かな社会の実現に持続的な貢献を果たす企業であり続けることを目的としたものです。
具体的な対策の1つとして、宅急便のデジタルトランスフォーメーションがあります。宅急便のデジタルトランスフォーメーションは、次のような狙いで策定されました。

  • デジタル化とロボティクスの活⽤で、安定的な収益基盤を強化する
  • セールスドライバーが、よりお客さまに向き合える環境を構築することで、お客さまとの関係を強化する

取り組み内容はほかにもありますが、推進する上でのポイントは内部組織にあると言えるでしょう。
ヤマトホールディングスではDX推進の中心的な役割を、社長室の構想改革担当とデジタルイノベーション担当が担っています。

  • DX推進のかなめとなる全社的な戦略を立案するのが構想改革担当
  • 戦略に合わせて活用するデジタル技術の領域を担うのがデジタルイノベーション担当

という細分化された担当者を配置しています。DX推進に特化した内部体制を持つことで、経営トップの強いコミットメントによってDXは力強く推進され、成功につながりやすくなるのです。
参考:独立行政法人 情報処理推進機構『デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査』(PDF)

DX化の課題を1つずつクリアして着実な取り組みを

これまで解説したように、DX化は単純にデジタル技術を導入するだけで達成できるものではありません。
技術以前にまず、「企業としてどのように組織を変革していくか?」「どのように製品・サービスやビジネスモデルを変革していくか?」といった戦略を策定して、必要な技術や課題をひとつずつクリアしていかなければなりません。
それぞれの課題をいかに工夫してクリアできるかがDX推進を成功させるためのポイントと言えるでしょう。

DX化の具体的な手順については上記の記事でも詳しくご紹介しておりますので、ぜひご参考になさってください。

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この記事を書いた人
中垣圭嗣

WebメディアでPGから管理職まで幅広く経験し、Wakka Inc.に参画。Wakka Inc.のオフショア開発拠点でラボマネジャーを担当し、2013年よりベトナムホーチミンシティに駐在中。最近では自粛生活のなかでベトナム語の勉強にハマっています。

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