フルスクラッチでシステムを構築するメリット・デメリットは?リスク対策、向いている企業を解説
こんにちは。Wakka Inc.のWebディレクターの安藤です。
フルスクラッチとはゼロからシステムを開発する手法です。ゼロからのシステム開発にはメリット・デメリットがありますが、
「フルスクラッチ開発は、自社にとってもメリットがあるのか?」
「フルスクラッチの導入にはどのようなリスクがあるのか?対応すべきポイントはなにか?」
といった情報を、きちんと理解しておきたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか?そこでこの記事では、フルスクラッチ開発の下記について詳しく解説していきます。
- メリット、デメリット
- リスクと対策
- フルスクラッチ開発が向いている企業
▼フルスクラッチとは?その意味については下の記事をチェック
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フルスクラッチのメリット
フルスクラッチ開発はゼロからつくるオーダーメイドのシステムです。業務に合わせてシステムの仕様を決めるにも、実際にシステムを開発するにも、それなりに手間はかかりますし簡単にはいきません。
しかし、手間をかけただけ自由度の高い独自のシステムを構築できる利点もあります。このパートでは、フルスクラッチによる開発にはどのようなメリットがあるかを見ていきましょう。
自社のビジネスに適合したシステムが構築できる
フルスクラッチ開発はゼロからシステムの仕様を決めて開発するため、自社の業務要件にあわせてシステムの仕様を自由に決められます。
既製品のパッケージの場合ははじめから一定の設計思想に基づいて構築されています。
このため、パッケージの仕様と整合しながら自社の独自仕様を納得のいくように取り込むのが難しい場合もあり、なかなか自由にはいきません。
パッケージ製品は、独自仕様によるカスタマイズをするにはどうしても制約が出てきてしまいますが、フルスクラッチ開発であれば自社の業務に合った独自仕様を自由に採り入れられます。
保守対応・機能追加に対応しやすい
システムが完成して本稼働したあとも、継続的に保守を重ねていくことが必要です。利用部門からの要望で、細かな使い勝手の調整や機能の改善を加えることが求められますし、ときには新たなサービス拡張のために機能追加が発生することもあるでしょう。
このようなとき、フルスクラッチ開発であればスピーディーで柔軟な対応が可能です。
プログラムソースの所有権を自社で持てるため、高い技術力を持った人材が社内にいれば、内製でよりスピーディーに対応できます。
カスタマイズの自由度が高く柔軟に対応できる
フルスクラッチ開発はシステム全体をゼロから設計して開発するため、きめ細かい要望に合わせて、業務で使い勝手がいいように自由なシステムデザインが可能です。
パッケージ製品でも多少のカスタマイズは可能ですが、製品として完成された既存の仕様によってどうしても制約が出てくるため、自由にカスタマイズというわけにはいきません。
その点でフルスクラッチ開発は画面のデザインや動き、機能の使い勝手など、制約に縛られず利用者の要望にこたえられるため、満足度の高いシステムに仕上げられます。
フルスクラッチのデメリット
自由度の高さが特徴のフルスクラッチ開発ですが、よいところばかりとはいえません。次にフルスクラッチ開発のデメリットについても見ていきましょう。
開発に膨大なコストがかかる
フルスクラッチ開発ではシステム全体をゼロから作り上げるため、それだけのコストがかかります。コストにはシステム開発にかかる費用面のコストと、開発をスタートしてからシステムが完成するまでの時間というコストがあります。
システムの仕様を決め、その仕様に沿って設計して開発を進めるわけですから、半年や1年といった開発期間が必要ですし、その期間の技術者を確保する費用も必要です。
そのため、システムの稼働開始までにスピードが求められている場合や、開発費用をできるだけ抑えなければいけない場合には選択するのが難しい開発手法といえるでしょう。
ランニングコストにも相応の予算が必要になる
システムは完成して本稼働してからもランニングコストがかかります。バグやセキュリティのアップデート、OS・ミドルウェアのバージョンアップ、ストレージの容量拡張などに対応するためのコストも必要になってくるでしょう。
クラウドサービスとして提供されているパッケージ製品の場合は、サービスの一環として自動で対応してくれることも多いので、メンテナンスにかかるコストがそれだけ軽減されます。
フルスクラッチで開発したシステムの場合は、これらのメンテナンス作業を自前で対応しなければなりませんので、その分のランニングコストがかかってくるわけです。
高い技術力が必要になる
システムをゼロから構築するためには高い技術力が必要です。
- システムのデザインに関する技術
- プログラミングの技術
- セキュリティに関する技術
- 開発プロジェクトを管理する技術
など、システム開発を成功させるために、あらゆる分野で専門性の高い技術が総合的に求められるのです。技術力が不足した状態でフルスクラッチ開発のプロジェクトを実施すると、さまざまなところでミスや手戻りが発生して、さらにコストがかかってしまうことになりかねません。
また、完成したシステムに致命的な欠陥が発生してしまうなど、システム開発が失敗するリスクが高くなります。したがって、フルスクラッチ開発を実施するには
「高い技術力を持ったプロジェクト体制を確保できるかどうか?」
「専門性が高く、信頼感のある開発会社と出会えるかどうか?」
が成功のカギを握っているといえます。
フルスクラッチ開発の流れ
次にフルスクラッチ開発のリスクについて解説していきたいのですが、その前にフルスクラッチ開発の流れについて簡単に見ておきましょう。
フルスクラッチ開発では、ウォーターフォール型の開発手法を使うのが今も主流となっています。ウォーターフォール型の開発手法は、次のような5つの工程で進めていくのが一般的です。
- 要件定義
- 設計
- 開発
- テスト
- 移行
それぞれの工程を、もう少し詳しく見ていきましょう。
要件定義
まず、システム化対象の範囲に含める自社業務を整理し、業務要件をまとめます。
次に、まとめた業務要件をもとに、業務要件を満たすために必要なシステム要件を洗い出します。
洗い出したシステム要件を分析して、最終的に要件定義として確定するのですが、ただ要件を洗い出すだけではなく、「要件間に矛盾や不整合がないか?」などをしっかり確認しておかなければなりません。
設計
要件定義で確定した機能要件、非機能要件(処理性能、負荷、セキュリティ、運用などに関する要件)をもとに、要件を満たすために必要なシステムの振る舞いを設計します。
詳細設計では、システムの振る舞いを実現するために必要な内部構造を具体的に決めていきます。
開発
設計工程で決めた内部構造の設計にしたがって、プログラム開発を行います。
プログラムが完成したら単体テストを実施するわけですが、一般的には単体テストまでを開発工程に含めて考えることが多いようです。
テスト
テスト工程には結合テスト、システムテスト、運用テストがあります。開発した単機能を組み合わせて、通しでテストするのが結合テストです。
また、開発するシステムが外部の他システムと連携する場合は、外部システムとの連携テストも結合テストの中で実施するのが一般的でしょうか。
システムテストでは開発した機能全体を通して、業務のシナリオにもとづいた総合的なテストを実施します。運用テストでは、システム利用者が業務運用の観点で、開発したシステムが業務要件を満たせているかを確認します。
移行
完成したシステムを本番移行して、実際の運用に乗せるまでを実施するのが移行の工程です。
フルスクラッチを選択した場合のリスク
フルスクラッチによる開発は自由度の高さがメリットですが、自由度が高い分だけクオリティを確保するために注意が必要です。
一歩間違えるとシステム仕様に矛盾を起こしたり、必要な機能がもれたり、開発した機能に多くの不具合が紛れ込んだりということが起きてしまうリスクがあるのです。したがって、フルスクラッチの開発を成功させるためには、リスクの所在をしっかり理解しておくことが欠かせません。
このパートではフルスクラッチ開発のリスクがどこに潜んでいて、リスクをどのように減らしていくべきかについて詳しく解説していきます。
リスク1:上流工程の誤りに気づかず開発が進む
さきほど、ウォーターフォール型の開発手法について流れを見てきました。
ウォーターフォール型は、上流工程のアウトプット(成果物)を次の工程のインプットにして工程を進めていくのが特徴です。
はじめは外枠だけ作って中はぼんやりしたブラックボックスだったものを、徐々に透明化していくようなイメージでしょうか。外枠から定義していくので、正しく進めれば堅実な開発手法といえるでしょう。
しかし、裏を返せばこれは上流工程で誤り(定義ミス、考慮もれなど)が隠れていたら、この誤りが下流工程へと引き継がれて流れて行ってしまうことを意味しています。
つまり工程が上流であるほど、誤りが発生ことによるリスクは大きくなるのです。
もう一度、開発の流れを見てみますと、最上流にある工程は要件定義でした。
要件定義でシステム要件がうまくまとまらず、重大な誤りが隠れていた場合、その誤りに気づけるのはテスト工程になります。テスト工程で誤りが発見されると、それを修正するために、また要件定義からやり直すことになるのです。
要件定義まで戻ってやり直すことになると、時間と費用の両方に対して大きなインパクトがあるでしょう。
したがって、要件定義工程で成果物の品質を保証しておくことは、フルスクラッチ開発においては非常に大切なことだといえます。
上流工程(要件定義)のリスク対策
失敗するとリスクの大きい要件定義工程。ここをうまく乗り切れるかどうかが、システム開発の成功を左右するといっても過言ではないでしょう。
したがって、リスク対策をしっかりして開発プロジェクトに臨むことが大切です。要件定義に失敗するリスクを減らすために、ぜひともオススメしたい対策案を2つあげておきます。
- 利用部門の代表者をプロジェクト体制に含める
- 関係者を巻き込んで入念にレビューする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
対策1:利用部門の代表者をプロジェクト体制に含める
よくありがちなのは、システム利用部門の担当者が業務に忙しく、システム開発プロジェクトに参画できないケースです。
利用部門のプロジェクト参画が薄いとシステム部門と開発ベンダーに任せきりになってしまい、要件定義の結果が利用部門の狙いどおりにいきません。
結果、利用部門が想定していたものと違うシステムができあがってしまうのです。利用部門が忙しいという事情はよくわかりますが、システム開発を成功させるために利用部門のプロジェクト参画は必須と考えてください。
利用部門の代表者をプロジェクト体制に含めることを強くオススメします。
対策2:関係者を巻き込んで入念にレビューする
下流工程では、開発したシステム機能を実際に動かし、テストすることで品質を保証しますが、上流工程(要件定義、設計)ではまだ実際に動かせるものがありません。
そのため、上流工程で品質を保証するための活動として非常に大切なのがレビューです。「レビューでいかに誤りを発見して修正するか?」が、上流工程で品質を上げるポイントになります。
とくに要件定義では利用部門の担当者はもちろんのこと、関係者をできるだけ広く巻き込んでレビューに参加してもらいましょう。そうすることでいろいろな視点から成果物の妥当性を検証してもらえ、誤りが発見されやすくなります。
また、プロジェクトに参加していない第三者の視点でレビューしてもらうのも有効です。プロジェクト関係者だけだと視野が狭くなりがちなため、意外な気づきを得られることもあるでしょう。
とにかく、可能な限りいろいろな人を巻き込んで、あらゆる角度から検証してみることが要件定義の質を上げるためには有効なのです。
リスク2:開発ベンダーの技術力不足により混乱する
システム開発を請け負う開発ベンダーの技術力不足が原因で、開発がうまく進まないのもよく見られる事象です。
開発ベンダーの中には、売上を確保したい思いが強く、何とか自社の提案を通して受注につなげようとする会社もあります。しかしそのようなベンダーは、技術力不足に対するフォローが十分にできているとは限りません。
技術力不足だと上述のようにシステム要件がうまくまとめられないこともありますが、その他にも
- プロジェクトの管理がうまくいかず納期と品質が確保できない
- 設計の考慮が不足して開発した機能に不具合が頻発する
など、さまざまな技術力の不足が原因で、開発プロジェクトが混乱するリスクが高くなります。
技術力不足のリスク対策
技術力不足によりプロジェクトが混乱するリスクを減らすために、取っておきたい対策案をあげておきます。
- 複数の開発ベンダーから提案をもらう
- 事前に小規模案件を発注してみる
こちらもそれぞれ詳しく見ていきましょう。
対策1:複数の開発ベンダーから提案をもらう
可能であれば、複数の開発ベンダーからシステム開発の提案をもらっておきたいものです。たとえば、取引実績があるベンダーが1社で、そのベンダーに頼るしかない状況だと技術力不足で失敗するリスクは高くなるでしょう。
複数の開発ベンダーから提案をもらって提案内容を比較評価することは、リスクを減らす対策として有効です。
この場合は提案内容や体制、見積金額など、評価すべきポイントを事前に定めておき、一定の基準をもって評価するのがオススメです。
対策2:事前に小規模案件を発注してみる
本命である大規模なフルスクラッチ開発を発注するまえに、事前に小規模案件を任せてみて、実力を評価しておくことも有効です。
小規模案件なので、これを成功させたからといって、全面的に信頼して大規模案件を任せられるとは限りません。
しかし少なくとも、仕事の進め方に問題のあるベンダーであることが事前にわかれば、失敗のリスクを避けられます。自社の状況が許せば、ぜひとも小規模案件の発注をご検討ください。
リスク3:人材の流動によりブラックボックス化が進む
フルスクラッチ開発においては開発プロジェクトの体制確保もさることながら、システム稼働後の保守体制をいかに維持していくかも大切になってきます。たとえば、
- 手厚い保守体制が構築できず、担当者を1人しか確保できなかった場合
- 1人しかいない担当者が部署異動や退職などで離任した場合
システムの中身を理解している人がいなくなり、システムがブラックボックス化してしまうリスクがあります。
保守体制のリスク対策
人材の流動によって、システムがブラックボックス化することを防ぐ対策を2点あげておきます。
- なるべく属人化しない保守体制を構築しておく
- 開発を担当したベンダーと保守契約を締結しておく
それぞれ詳しく見ていきましょう。
対策1:なるべく属人化しない保守体制を構築しておく
システムが本番稼働したあとの保守では、できる限り2名以上の担当者を置く体制にしておきたいものです。2名体制にしておくことで、担当者が離任したときにシステムがブラックボックス化するリスクを防げるからです。
人材不足で複数の担当者を置くのが難しい場合は、他のシステムを主に担当しているメンバーを、兼任でもいいので副担当として任命しておくとよいでしょう。
システムの仕様や、開発に使用しているツール、開発言語などの知識を担当者に教育して引き継いでおくことも大切です。
対策2:開発を担当したベンダーと保守契約を締結しておく
自社内で、システムに対する知識を十分に持った担当者を置くのが難しい場合は、開発を担当したベンダーと保守契約を締結して、ベンダー側からシステムの保守を担当する人材を出してもらうのも有効です。
開発ベンダーに保守を担当してもらう場合も、責任者として自社内で担当者を配置することは必要ですので、他の業務と兼任になっても担当者を任命しておくべきでしょう。
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フルスクラッチに向いている企業とは?
ここまでは、フルスクラッチのメリット・デメリット、メリットを活かすためのリスク対応について解説してきました。それでは結局のところ、フルスクラッチが適しているのはどのような企業なのでしょうか?
このパートではフルスクラッチが適しており、メリットを活かせる企業の特徴について考えてみます。
独自の業務プロセスが競合他社との差別化要因になっている
自社の業務プロセスが競合他社と比較しても横並びで標準的なものであるなら、パッケージ製品を導入した方が時間もコストも節約できるでしょう。
しかし、自社ならではの業務プロセスを持っていて、競合他社との差別化に成功している場合は、その業務プロセスを変更してまでパッケージ製品を導入すべきではありません。
業務プロセスが自社のビジネスを優位にしているなら、業務プロセスを変更するのではなく、システムの方を業務プロセスに合わせるべきでしょう。
このようなケースではフルスクラッチを採用し、自社の業務に適したシステムを構築する選択肢が有効です。
最近ではよく、自社のECサイトを、クラウドサービスから自前のシステムに切り替える有名企業のニュースを目にすることがあります。
これらの企業も自社のビジネスを優位にすることを目的として、あえて自前のシステムに切り替える決断をしていると推測されます。
高い技術力を持った人材を自社で確保できる
フルスクラッチ開発を成功させるためには、高い技術力を持った技術者をプロジェクトに参画させることが不可欠です。
システムの設計から開発・テストを開発ベンダーに任せるとしても、要件定義工程を主導できる人材は自社から出せるのが望ましいでしょう。
要件定義工程では、システム利用部門の担当者にも参加してもらい、自社全体の要件をとりまとめる役割を担う人材が必要となるからです。
ここは開発ベンダーに支援をしてもらうことはできても、完全に任せてしまうことができるものではありません。
また、設計から開発・テストについてもシステム開発の高い技術が必要になってくるため、高い技術力を持った開発ベンダーを調達できるかもポイントのひとつです。
このように、総合的に高い技術力が確保できるのであれば、フルスクラッチ開発は十分検討に値します。
長期的な視点で事業の成長を目指している
システム投資に対して前向きで、十分に予算を確保できる企業であれば、フルスクラッチ開発は選択可能です。
また、フルスクラッチ開発ではシステムの稼働までに半年、1年といった比較的長い時間が必要となるため、長期の開発期間が許容できることも必須でしょう。
より低予算で短期間に導入できるのはパッケージ製品ですが、時間と費用をかけてでも、長期的な視点で事業の成長を目指すのであれば、フルスクラッチ開発を検討するべきです。
フルスクラッチのメリットを活かしてシステム開発を成功させよう
フルスクラッチ開発のメリットはひとことでいうと、ゼロから作り上げるため自由度の高いシステムを構築できることです。しかし、フルスクラッチ開発を導入したからといって、必ずしもそのメリットを得られるわけではありません。
リスクについてもきちんと理解し、適切に対処することで、システム開発を成功に導くことが大切です。
お読みくださったみなさまが、フルスクラッチ開発のメリット・デメリット、リスクと対策について本記事を参考にされ、システム開発の成功にお役立てくだされば幸いです。
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学生時代にWebサイトを自作したことがきっかけでWebの世界に。制作会社でデザイン、WordPressテーマ開発の実務を経て、テクニカル・ディレクターとして大規模サイト構築のディレクションを経験。2021年からWakka Inc.の日本拠点でWebディレクターとして参画。最近はブロックエディタになったWordPressをもう一度、勉強しています。