物流業界の新ビジョン・LaaSとは?実現のための導入ステップ
こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
物流の現場では人手不足が深刻化し、人手不足は今後、労働人口の減少とともに深刻化することが予想されます。
そこで国土交通省は、物流の将来的なビジョンを「LaaS(Logistics as a Service)」として打ち出しました。
LaaSは2020年に打ち出されて以来、ビジョンの実現に向けて幾つかの取り組みが始まっています。
そして、2040年をめどにLaaSを実現すべく、具体的な施策が開始されてくることが予想されます。
本記事では、LaaSの概要やLaaS実現へ向けた取り組みについて紹介します。
LaaSの目指すビジョンや、現在広がっている物流業界におけるデジタル化を把握しておくと、いざLaaS実現の流れが本格化したときにスムーズに運用を進めていけるでしょう。
「LaaS」とは?
LaaS(Logistics as a Service)とは、国土交通省が発表した物流業界へのビジョンです。
交通政策においては「MaaS(マース:Mobility as a Service)」が注目されていましたが、LaaSは物流版のMaaSという位置づけとされています。
MaaSとは、旅行者や地域の住民一人一人の個別の移動ニーズに対し、複数の公共交通機関を組み合わせるサービスです。複数の移動手段や観光地や医療機関などの目的地でのサービスと連携することで、移動の利便性向上や地域の課題解決を目指しています。
LaaSの目指すビジョンも、物流業界のシームレス化や最適なルートでの配送、運送方法の選択化、これまで人手が必要だった作業の自動化などが含まれます。
LaaSを掲げた背景には、慢性化している人材不足とドライバーの高齢化、従業員への大きな負担があります。
しかし、LaaS実現の構想には「無人配送ビークル」のように、導入のために法整備や仕組みづくりが必要な、すぐには実施できないものもあります。
テクノロジーの発展が大きなウェイトを占めるため、LaaS実現に向けた具体的な施策がなかなか開始されていないのが現状です。
参照:日本版MaaSの推進|国土交通省
LaaSを必要とする背景
LaaSの実現が必要とされる背景には以下の日本の現状があります。
- 物流業界における慢性的な人手不足
- 物流への需要過多
- CO2排出量の削減の必要
物流業界における慢性的な人手不足
物流業界では深刻なドライバー不足が進行しています。
2021年度の調査ではトラックドライバーが不足していると感じる企業の割合が55%を占めました。
(※不足、やや不足の合計値)
また、経済産業省の調査では約4割が50歳以上と高齢化が進んでいます。
高齢化にともない、今後ますます人手不足が深刻化するでしょう。
鉄道貨物協会H30報告書によると、2028年度には約27.8万人のドライバーが不足すると予測されています。
参照:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況|経済産業省・国土交通省・農林水産省
物流への需要過多
また、LaaSを必要とする背景のひとつに、EC市場の拡大による物流需要の増加もあげられます。
EC市場規模は下記のような拡大推移をたどっています。
年度 | 2013 | 2016 | 2019 | 2021 |
---|---|---|---|---|
市場規模(BtoC)単位:億円 | 59,931 | 80,043 | 100,515 | 132,865 |
EC化率 | 3.85% | 5.43% | 6.76% | 8.78% |
(経済産業省「電子商取引実態調査」より抜粋して独自に作成)
今後もEC市場は拡大すると予測され、物流の効率化が急務です。
CO2排出量削減の必要
2050年のカーボンニュートラル宣言へ向けた、CO2排出量の削減もLaaS実現が必要な理由のひとつです。
貨物自動車部門のCO2排出量は、運輸部門において約4割を占めています。
カーボンニュートラルの実現に向けて、日本全体としてCO2排出量は減少していますが。貨物自動車のみに限定して見ると、それほど大きく減少はしていません。
配送車をEV車へ切り替えるといったハード面での整備と同時に、配送ルートの最適化により走行距離を必要最低限におさえるといった取組も必要となるでしょう。
LaaS実現のための具体的な構想案
Laas実現のためには、下記のような構想案があげられています。
- 物流情報・リソースのシェアリング化
- AI・IoTの活用
- ラストワンマイルの無人化
- トラック輸送の効率化
それぞれの構想案について紹介します。
物流情報・リソースのシェアリング化
LaaSは物流におけるシームレス化、最適なルート配送を選ぶことが一つの目標です。
そのために、自社に限らず物流倉庫や輸送方法をシェアできれば、より最適なルート配送が実現できます。
シェアリングすることで同じ方面への荷物をまとめて輸送できるため、コストの削減につながります。
また、輸送にかかる人員も減らせるでしょう。
AI・IoTの活用
配達のルートを最適化させるためのAI・IoTの活用も、LaaS実現の一つの取り組みです。
営業所から配達先までの配送にどのようなルートが最適なのかは、その日の貨物状況によって変わり、運送会社はその日の配送ルートを毎日選定しなければいけません。
AIに配送情報を取り込んで、自動で最適な配送ルートを表示させれば、効率化できます。
AI以外にも、配送のシミュレーションシステムに車両数や積載量などの条件を入力する方法もあります。
あらかじめ最適なルートかどうかを判断するのに役立ちます。
また、車両の位置をGPSで取得し、道路状況や配送状況をリアルタイムで把握し、配送計画に反映する管理型と呼ばれるシステムも有効です。
ラストワンマイルの無人化
LaaS実現には、ラストワンマイルの輸送を無人化するための道路整備が必要とされています。
海外ではラストワンマイルを無人ビークルやドローン配送へ切り替える動きが始まりました。
ラストワンマイルとは、営業所から自宅、自宅から営業所の工程を指します。
ラストワンマイルの工程には、道路の整備の問題や荷受人の不在時の対応など課題が多くあげられます。
この工程の解決策として、ラストワンマイルの無人化を一つのLaaSの取り組みとして掲げられています。
日本では日本郵便とZMPが共同開発した自動走行ロボットが実証実験を行っています。
トラック輸送の効率化
高速道路などの幹線道路にトラック専用の空間を作り、トラックの自動走行を可能にするという構想もあがっています。
物流の基軸となっている東名高速道路・名神高速道路は全国の約半数の貨物輸送に利用されており、トラック専用のレーンを作ることで自動化をめざす流れです。
アメリカでは「HOTレーン」と呼ばれる、渋滞緩和のための専用レーンが運用されています。
一部のランプ(高速道路への入り口)では一般道から直接、HOTレーンへ合流できるようになっており、日本でもスマートICと民間施設を直結させる動きが見られています。
実際に、三重県多気町のアクアイグニス多気では伊勢自動車道へ直接アクセスできるよう整備されました。
また、将来的に自動運転や隊列走行が可能になることを見据え、「ダブル連結トラック」の導入を開始しました。
1台で2台分の輸送が可能になるため、人員削減が可能です。
平成31年には新東名高速道路で、令和元年からは東北から九州まで対象路線を拡充しています。
参照:新しい物流システムに対応した高速道路インフラの活用の方向性
システム導入を検討する際に踏むべきステップ
LaaSの実現へ向けて、多くの企業で運送データの自動化が進んでいます。
業務の効率化のためにはシステムの導入が欠かせません。
物流倉庫の自動化に向けては下記の手順で導入を進めましょう。
- 業務フローの見直し
- 導入・運用コスト計算およびベンダー選定
- システムの導入・テスト実施
- 本稼働・効果検証
それぞれのステップについて解説します。
業務フローの見直し
現在の業務フローを見直し、課題を見つけ出しましょう。
従業員によって行う手順が異なる場合、システムの導入によって標準化するのが困難になってしまいます。
また、すべての工程を自動化できるわけではないため、自動化する工程を判別します。
自動化する工程としては下記の基準をもとに判別しましょう。
- 人手が必要なもの
- 同じ作業を繰り返すもの
- 作業時間がかかるもの
自動化する際に業務フローが大きく変わる可能性もあります。
どの工程が従業員の負担になっているかといった従業員の声を反映させることも大切です。
導入・運用コスト計算およびベンダー選定
導入にかかるコストと導入後にかかる運用コストを見積もりましょう。
見積もりをとる時には、自動化したい工程や必要な機能をベンダーに伝えておきます。
また、見積もり時点で運用開始可能な時期も聞いておきましょう。
見積り書と予算を照らし合わせ、また、機能を考慮した費用対効果を予測します。
ベンダーによってはデモを実施することもできるため、作業時間の短縮などを身をもって経験することも可能です。
ベンダー選定の際には、コストだけでなく、運用後のイメージも明確にもてるかどうかのポイントも考えてください。
システムの導入・テスト実施
選定したベンダーからシステムの準備が整ったら、テスト運用を開始します。
テストを実施する際には、システムの正確性を確認しましょう。
テストは段階を踏んで、エラーが出ないか、求めている機能が備わっているかを確認しながら進めます。
エラーが起きた際には確実に修正し、運用開始時に影響のないようにしましょう。
本稼働・効果検証
従業員へ操作方法や活用法を教育したら、本稼働の開始です。
本稼働させてすぐはエラーや業務フローの変更でトラブルが生じる場合があります。
トラブル発生時にサポートが受けられるよう、ベンダーのサポート体勢も確認しておきましょう。
運用を開始してからは定期的にシステムの評価を行います。
従業員からのアンケートなどによる定性的な評価と、業務時間の比率や稼働率などの定量的な評価の両面で検証が必要です。
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LaaS実現の取り組み|導入事例
実際にLaaSを導入している企業の事例を見てみましょう。
大手物流企業の「ヤマト運輸」と「日立物流グループ」の事例を紹介します。
ヤマト運輸
宅配便最大手の「ヤマト運輸」は、2017年に「ロジスティクス・プラットフォーム」と呼ばれるシステムを導入しました。
「ロジスティクス・プラットフォーム」は、ヤマト運輸の物流センターに導入され、入出荷管理や在庫管理、配送管理などの業務を一元的に管理しています。
導入の結果、業務効率が大幅に向上したそうです。
具体的には、入出荷作業のミスが減少し、作業時間が20%短縮されました。
また、在庫情報をリアルタイムで把握できるようになり、適正な在庫管理が可能になったとのことです。
ヤマト運輸の事例は、LaaSへの取り組みが大規模な物流センターの効率化に貢献できることを示しています。
日立物流グループ
大手物流企業の「日立物流グループ」も、2019年に「LogiNext Cloud」と呼ばれるサービスを開始しています。
「LogiNext Cloud」は、日立物流グループの配送業務に導入され、配送ルートの最適化や、ドライバーのスケジュール管理などの業務を自動化しています。
導入の結果、配送効率が大幅に向上しました。
具体的には、配送ルートの最適化により、配送距離が10%短縮されました。
また、ドライバーのスケジュール管理が自動化されたことで、配送遅延のトラブルが減少したとのことです。
LaaSへの取り組みを導入しよう
物流版MaaSとして、物流業界のビジョンを掲げたLaaSは画期的な取り組みといえます。
物流業界の人手不足や環境問題、物流への需要過多といった課題を解決させていく道しるべになるものです。
LaaSという言葉はそれほど浸透していないものの、物流のDX化の流れもLaaSにつながるものです。
LaaS実現に向けてはラストワンマイルのための道路整備やトラック自動走行のための整備など、インフラ面での整備も今後必要となります。
まずは本記事を参考に、LaaS実現の第一歩となるシステム化、自動化を検討してみてはいかがでしょうか。