ベトナム法人設立の際に注意すべき法律とは?日本との違いを解説
こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
昨今は海外に事業を展開するために、ベトナムに進出する企業が増加しています。
また、ベトナム進出に際し、法人の設立を検討する企業は少なくありません。
しかし、外国である以上、ベトナムでの法人設立は日本と違う手続きを踏まえることに注意しなければなりません。
ベトナムで法人を設立する際は、現地の法律を理解し、適切なプロセスで実行する必要があります。
本記事では、ベトナム法人設立の際に注意すべき法律について解説します。
あわせて、法人設立の手続きや注意点なども解説するので、ぜひ参考にしてください。
一般的なベトナム法人の種類
ベトナム法人の形態は、大まかに分けて3種類あります。
いずれも投資者の人数によって区別されており、法規制に則って組織体制を構築しなければなりません。
現地でどのような事業をするかによって、選ぶべき法人の種類は変わるため、それぞれの特徴を正確に把握しましょう。
株式会社
ベトナムの企業法では、株式会社の機関構成は以下のように定められています。
創業者としての出資者数 | 3名以上(上限なし) |
組織体制 | 株主総会・取締役会・社長 (株主が11人以上、あるいは総株式の50%を有する法人株主がいる場合は監査役会を設置) 又は、株主総会・取締役会および社長 (取締役会の20%以上が独立取締役、さらに取締役会に直属する内部会計監査会を設置) |
株式会社は株券の発行も実施するため、企業法や投資法だけでなく、証券法の規制も受ける点に注意しましょう。
日本ではポピュラーな法人形態である株式会社ですが、ベトナムで法人を設立する際はあまり採用されません。
株式会社は株主総会を設置するため、意思決定が遅く、管理運営にかかるコストが大きくなりやすいためです。
また、3名以上の出資者を集めなければならなかったり、監査役の過半数をベトナム常駐者にしなければならなかったりと、規制が多い点もネックでしょう。
1名有限責任会社
1名有限責任会社の機関構成は、以下のように定められています。
創業者としての出資者数 | 1名 |
組織体制 | ・委任代表者が1名の場合 会長・社長、又は副社長 ・委任代表者が3名以上の場合 社員総会、会長・社長、又は副社長。ただし会長は委任代表者から選ばなければならない。 |
1名有限責任会社は、個人・法人を問わず設立できるうえに、監査役の設置が義務ではないため、設立のハードルが低い点が特徴です。
日本の企業が1名有限責任会社を設立した場合、100%の出資者となるため、子会社として扱われます。
2名有限責任会社
2名有限責任会社の機関構成は以下のとおりです。
創業者としての出資者数 | 2名~50名(50名以下) |
組織体制 | 社員総会・社員総会会長・社長又は総社長 (うち1名は法定代表者と兼任) |
2名有限責任会社も設立のハードルが低く、監査役の設置も義務付けられていません。
2名有限責任会社はベトナム進出でもっとも採用される法人形態であり、現地に法人を設立した日本企業の約8割が採用しています。
現地のパートナー企業と合同で設立するパターンが多く、資本比率を外資規制の規定に合わせるために採用するケースがほとんどです。
ベトナム法人を設立する手続き
本章では、ベトナム法人を設立する手続きについて解説します。
法人を設立する際に、必ず確認しましょう。
法人設立の手順
ベトナム法人を設立する際は、以下の手順で手続きを行います。
- 投資登録証明書(IRC)の取得
- 企業登録証明書(ERC)の取得
- 法人口座の開設
投資登録証明書と企業登録証明書は、それぞれ設立に欠かせないものです。
投資登録証明書は、事業の種類によって発給機関が異なる点に注意しましょう。
通常の投資案件であれば、計画投資局が発給機関です。
一方で、工業団地・輸出加工区・ハイテク地区・経済特区に関連する案件は管理委員会が発給機関になります。
なお、ベトナム法人で使用する口座は自由に選択できます。
ベトナム資本の銀行はもちろん、日本やそれ以外の国の銀行も法人口座としても扱えます。
口座を開設したら、法人の所在地にある計画投資局に届け出をしましょう。
法人設立に必要な書類
ベトナム法人の設立に必要な書類は、それぞれ以下のとおりです。
【投資登録証明書】
- 投資申請書
- 出資企業の全部事項証明書の公証写し(法人)、あるいはパスポートの公証写し(個人)
- 投資案件提案書
- 財務関係書類(直近2期分の決算報告書の写し等)
- オフィスの賃貸契約書・土地使用要求の提案書
- 投資の種類によっては別途の必要書類(技術適用の説明書や事業協力契約書など)
【企業登録証明書】
- 企業登録申請書
- 定款
- 委任代表者一覧
- 社員一覧(有限責任会社の場合)、あるいは株式一覧(株式会社の場合)
- 出資企業の全部事項証明書の公証写し(法人)、あるいはパスポートの公証写し(個人)
- その他必要な書類
事業や投資の種類によっては、別途で必要書類を求められる場合もあるため、設立の際は計画投資局や管理委員会に問い合わせましょう。
法律におけるベトナムと日本との違い
ベトナムで法人を設立するなら、日本との法律の違いに注意しなければなりません。
本章では、法律におけるベトナムと日本との違いについて解説します。
一部の法律や司法制度が日本と異なる
ベトナムは歴史的な経緯もあって、日本とは一部の法律や司法制度が異なる点には注意が必要です。
元々社会主義国であるベトナムは、旧ソ連の法律をモデルに法整備を進めていましたが、近年は日本や英米の法律の影響を受けるようになりました。
しかし、日本と違って三権分立がないなど、旧ソ連の法律の影響が残っている一面があります。
そのため、法人設立の手続きを行う際は、必ず現地の法律に詳しい専門家のフォローを受けましょう。
企業法と会社法の違い
ベトナムの企業法と日本の会社法の違いも、注意すべきポイントです。
ベトナムの企業法は、日本における会社法に相当する法律ですが、上述したように法人形態の種類が異なります。
日本では有限会社の廃止に伴い、法人形態は株式会社に一本化されました。
そのため、基本的に法人の設立は株式会社の設立と同一視できます。
一方で、ベトナムにおける株式会社は3名以上を求められるうえに、設立に時間がかかります。
そのため、ベトナムに進出する際の法人形態は、有限責任会社が一般的です。
投資法に注意
ベトナムの投資法は、一種の外資規制としても機能している法律です。
日本では内資・外資を問わず、会社法に則って法人を設立できます。
しかし、ベトナムは海外の企業が法人を設立するために行う出資はすべて外資と見なされ、投資法の対象となります。
ベトナムにおける投資法は企業法に先立つものであり、ベトナム法人設立の際は、投資登録証明書の手続きから始めなければなりません。
一般的な事業であれば、投資登録証明書の発給は比較的容易ですが、事業の内容によっては手続きに時間がかかる場合があります。
ベトナム法人を設立する際の注意点
ベトナム法人を設立するなら、いくつかの注意点をクリアしましょう。
いずれも重要なことなので、設立の際は必ず確認しましょう。
規制対象を確認する
ベトナムでは、特定の事業分野に対して外資投資制限を設けており、その種類は243種もあります。
外資系企業のみが条件付きで投資制限を受ける分野も19項目あるため、注意しなければなりません。
また、ベトナムが加盟しているWTOでも、外資が進出する際に、必ず現地の企業と合弁企業を設立しなければならない事業分野が設定されています。
ベトナム進出する際は、自社の事業が規制対象であるかを確認しましょう。
規制対象を把握していないと、思うような事業展開ができなくなる恐れがあります。
企業登録内容を必ず通知する
ベトナム法人を設立したら、必ず企業登録内容を計画投資局に通知しましょう。
企業登録内容を通知すると、ベトナムの国家企業登録情報サイトに、企業コード・企業名・出資者の情報などの登録内容が公示されます。
企業登録内容通知は、必ず実施しなければならないため、失念しないようにしましょう。
事業ライセンスの有無を確認する
ベトナムでは、事業ライセンスの取得を求められる事業分野があります。
例えば、人材紹介事業や飲食業は、別途で当該事業のライセンスを取得する手続きを実施しなければなりません。
ただし、法規制の変化によって事業ライセンスが不要になる場合もあります。
実際、過去に卸売業で必要だった卸売ライセンスは、2018年に一部の製品を除いて不要になりました。
VATインボイスを発行する
ベトナムの法人設立において、VATインボイスは重要なものです。
VATインボイスとは、ベトナムでビジネスを行った際に発行される領収書であり、別名レッドインボイスとも呼ばれます。
VATインボイスは、現地で付加価値税の還付や損金算入を受けるうえで使用するなど、税務において重要なものです。
ベトナムでは2022年7月以降、紙媒体が廃止され、企業が発行するすべてのVATインボイスが電子化されました。
そのため、以前より運用が容易になっています。
しかし、VATインボイスはベトナム語で記載しなければならないうえに、誤字・脱字があると認められません。
発行する際は細心の注意を払いましょう。
ベトナム法人を設立するなら必ず法律を確認しよう
ベトナムは日本と法律が異なるため、法人形態の種類や、各種法規制の内容は必ず確認しなければなりません。
とりわけ、企業法や投資法のような基本法が未整備で、省庁や担当者によって対応が変わる場合もある点には注意が必要です。
法人の設立時に実施する手続きに関しても、日本とは違う独自の取り組みが行われているため、事前に確認しましょう。
また、規制対象となる事業や、VATインボイスなど、いくつかの注意点も意識しなければなりません。
実際にベトナム法人を設立する際は、現地の法律に詳しい専門家に協力を依頼しましょう。
法的なサポートを受ければ、設立をスムーズに進められます。