スクラム開発とは?メリット・デメリットとアジャイル開発との違いなどを解説
こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
ソフトウェアを開発するうえで、開発手法の選択はプロジェクトの成否を左右します。
実際に導入される開発手法は多種多様ですが、そのなかでも知名度が高い手法の一つがスクラム開発です。
ソフトウェア開発に携わっている方なら、実際に耳にする機会が多いでしょう。
しかし、「スクラム開発のメリット・デメリットは何か?」「よく聞くアジャイル開発との違いがわからない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事ではスクラム開発について、以下の事柄を解説します。
- スクラム開発の概要とアジャイル開発との違い
- スクラム開発のメリット・デメリット
- スクラム開発のやり方や成功させるポイント
スクラム開発の概要だけでなく、メリットやデメリットを知っておけば具体的なプロセスをイメージしやすくなります。
また、スクラム開発を成功させるうえで知っておくべきポイントについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
スクラム開発とは?アジャイル開発の一つ
スクラム開発とは、少人数のチームを構成し、短いスパンで開発サイクルを繰り返す開発手法です。
複数のメンバーがチームを組み、コミュニケーションを取りながらプロセスを進行させる様から、ラグビーにちなんで「スクラム」と名付けられました。
スクラム開発は最大10人のメンバーでチームを構成し、1カ月単位で区切った「スプリント」と呼ばれる開発期間を設けて実施されます。
その際、各メンバーに割り振られたタスクを同時進行でこなしていくため、スピーディーかつ効率的なソフトウェア開発を実現できる点が特徴です。
そもそもアジャイル開発とは
スクラム開発と並んで、よく知られている開発手法にアジャイル開発があります。
アジャイル開発とは、プロダクトを機能単位で分け、機能ごとに開発を進めていく手法です。
アジャイル開発のアジャイルは英語で「すばやい・機敏な」を意味しており、優先順位の高い機能を短期間で開発する点から名付けられました。
アジャイル開発は、昨今のソフトウェア開発において主流となっている開発手法であり、仕様変更やユーザーのニーズの変化に対応しやすい点が特徴です。
そのため、適切に実行できれば、よりユーザーの満足度を引き上げられるプロダクトを開発できます。
短いスパンで開発を進める点でスクラム開発とアジャイル開発は似通っていますが、厳密にはやや異なります。
アジャイル開発はあくまで短いスパンで進行する開発手法の概念を指していますが、スクラム開発はその概念を実現する開発手法の一つとして扱われます。
つまりスクラム開発はアジャイル開発を実践するためのフレームワークの一種であり、広義は同じカテゴリーに属するものです。
スクラム開発のメリット
スクラム開発は実践すると以下のようなメリットが期待できます。
- 仕様変更やトラブルへ柔軟に対応できる
- 短期目標によりモチベーションが維持しやすい
- テストと改善サイクルを短縮できる
スクラム開発のメリットを知れば、導入する意義を理解できます。それぞれ解説するので、ぜひ参考にしてください。
仕様変更やトラブルへ柔軟に対応できる
スクラム開発は短いスパンで開発工程を遂行しつつ、その都度フィードバックを得て改善する開発手法です。
そのため急な仕様変更やトラブルが発生しても柔軟に対応できます。
また、最小単位の機能ごとに開発工程を分けるため、開発と並行して他のプロダクトを参照しながらデザインや仕様を小まめに見直す機会が設けやすい点も特徴です。
昨今はマーケットが常に変動しており、それに応じてユーザーのニーズも目まぐるしく変化しています。
トレンドが変わればソフトウェアに求められる仕様も変更されるため、開発者側に柔軟な対応を求められる場面も少なくありません。
スクラム開発はそのような状況に順応しやすく、ニーズの変化を取り入れやすいため、満足度の高いプロダクトを実現できます。
短期目標によりモチベーションを維持しやすい
スクラム開発はチームを構成する個々のメンバーがそれぞれ役割を持っており、互いに連携しながら作業を進める開発手法です。
プロセスをスムーズに遂行するうえでメンバーのモチベーションの維持は重要であり、プロジェクトの成果にも大きく影響します。
その点において、スクラム開発はメンバーのモチベーションを持ちやすい構造です。
スクラム開発は短期間のスプリントを組んで実行するうえに、最小単位で開発プロセスを分けるため、明確な短期目標が発生します。
短期目標があると現在取り組んでいる作業の意義がわかりやすくなるため、メンバーがモチベーションを維持しやすくなります。
また、工数が少ないのでスケジュールを管理しやすく、機能別に開発を進めるので、スクラム開発は手戻りが発生するリスクも低いです。
さらにスケジュールが煩雑にならなければ、それだけメンバーがプロジェクトの進行を実感しやすいため、モチベーションの維持につながります。
テストと改善サイクルを短縮できる
テストと改善サイクルを短縮できる点もスクラム開発の重要なメリットです。
スクラム開発はスプリントごとに必ずフィードバックを得て改善するプロセスを設けるため、作業中に生じた課題や問題を解決しやすくなります。
加えて短いスパンで開発するため目標が明確になりやすく、工数も正確に把握しやすいので、その分メンバーは集中して作業できます。
さらにチーム内のメンバーで役割分担をして作業するため、より効率的な開発工程の進行が可能です。
スクラム開発のデメリット
スクラム開発はメリットが多い開発手法ですが、以下のような無視できないデメリットもあります。
- スプリントの増加で管理が複雑になる
- アジャイル開発でスプリントを運用するまでに時間がかかる
- チーム内でのコミュニケーション体制が必須
デメリットを知らないまま新たな開発手法に取り組むと、予期せぬ失敗を招きかねません。
より精度の高い開発プロセスを設計するためにも、デメリットは正確に把握しましょう。
スプリントの増加で管理が煩雑になる
スクラム開発は仕様変更に対応しやすい開発手法ですが、その都度変更に呼応してスプリントを変えていると、それだけスケジュールが複雑になります。
スケジュールが複雑になると管理が難しくなり、全体の進捗状況をなかなか把握できません。
そのような状況だと予期せぬトラブルが発生した際に対応が遅れたり、手戻りが発生したりするため、開発に要する時間やコストが増加します。
アジャイル開発でスプリントを運用するまでに時間がかかる
スクラム開発を始めとするアジャイル開発は、ユーザーからのフィードバックによる計画の変更を前提にしている開発手法です。
そのため、ウォーターフォール型のような計画を忠実に実行する開発手法に慣れた企業だと、スクラム開発の運用に失敗する恐れがあります。
スプリントを設定するスクラム開発を実行するには、柔軟な対応ができるスキルを持つ人材と開発手法に対する深い理解が不可欠です。
スクラム開発を導入する際は、自社の状況を入念に分析し、運用に適しているかを判断してからにしましょう。
チーム内でのコミュニケーション体制が必須
スクラム開発は少数精鋭のチームでスピーディーに機能の計画と実装を繰り返すため、メンバー間でのコミュニケーションが不可欠です。
常に互いの進捗を把握するために、スクラム開発ではメンバー同士がミーティングやデイリースクラムを組んで状況を報告したり、課題について発表したりする機会を設けます。
しかしコミュニケーションを円滑にできないと、メンバーが連携を取りづらくなり、アクシデントが発生した際のフォローもうまくできなくなります。
何よりメンバー同士の進捗に認識の相違があると、スプリント単位のみならず、プロジェクト全体に悪影響を及ぼしかねません。
そのため、スクラム開発では、メンバー同士がコミュニケーションを取りやすい体制を構築することが重要です。
スクラム開発のやり方
スクラム開発を実施するなら、大まかなやり方を知っておきましょう。
やり方を知っておけば開発プロセスを構築しやすくなります。
以下ではスクラム開発の流れや、チームを構成するメンバーとそれぞれの役割について解説します。
スクラム開発の流れ
スクラム開発の流れは以下のとおりです。
- プロダクトバックログの作成
- スプリント計画の立案
- スプリントを実施
- スプリント実施後の評価
- スプリントレトロスペクティブ
スクラム開発は最初に各メンバーのタスクをリスト化したプロダクトバックログを作成し、それから工数を見積もってスプリント計画を立案します。
この時点でメンバーへのタスクの振り分けも行いましょう。
スプリント計画を立案したら、計画に沿ってスプリントを実施します。
この際、定期的にデイリースクラムを行い、メンバー同士の進捗の共有や課題への対応などを話し合います。
スプリントを完了したら、ユーザーへのテストや報告を実施し、プロダクトに対する評価を行いましょう。
評価を得たら、スプリントの過程を振り返ったり、どのようにフィードバックを活かせるかを議論したりします。
この工程がスプリントレトロスペクティブです。
スプリントレトロスペクティブを完了したら、話し合いを通じて得た知見を元に、改善やさらなる開発を実施します。スクラム開発はこのサイクルを繰り返してプロダクトの完成を目指します。
スクラム開発のメンバーと役割
スクラム開発では少人数でチームを構成しますが、各メンバーは以下のような役割を担います。
ロール | 役割 |
プロダクトオーナー | バックログの作成と開発プロセスにおける意思決定を行う |
スクラムマスター | メンバー間の進捗管理やフォローを行う |
開発メンバー | タスクを分担して開発を実行する |
スクラム開発のチームにおいて、プロダクトオーナーとスクラムマスターは重要なロールです。
プロダクトオーナーはチームの最終的な意思決定を行うロールであり、チームを引っ張るリーダーとして重大な決定を行います。
対してスクラムマスターは開発工程が円滑に進むようにメンバー間の進捗管理を行うメンターを担うロールです。
進捗を網羅しつつ、場合によっては進捗が滞っているメンバーをサポートし、適切なアドバイスを提供します。
そしてプロダクトオーナーとスクラムマスターを支え、分担したタスクを実行していく役割が開発メンバーです。
開発メンバーの間に上下関係はなく、それぞれのスキルを活用しつつ、互いにコミュニケーションを取って開発を進めます。
スクラム開発は、チームを構成するメンバーそれぞれが与えられた役割を果たしてこそ効果を発揮します。
お互いの役割を理解し、責務を全うできるようなチーム作りを心がけましょう。
なお、チームは3人~10人程度のメンバーで構成しましょう。
メンバーが多すぎるとコミュニケーションコストが増大し、作業効率を低下させる恐れがあります。
スクラム開発を成功させるためのポイント
スクラム開発は成功させるうえで意識すべきポイントがいくつかあります。
そのポイントは以下のとおりですです。
- チームメンバーの人選に注意する
- ベロシティを計測しPCDAを回す
- 各プロセスの意義やチームの役割を理解する
- ミーティングや進捗報告を欠かさない
- チームが目指すゴールを明確にする
いずれのポイントも、理想的なスクラム開発を実行するうえで欠かせないものです。
それぞれ順番に解説します。
チームメンバーの人選に注意する
スクラム開発を担うチームを構成する際、メンバーの人選には注意しましょう。
スクラム開発はメンバーのスキルだけでなく、コミュニケーションも求められる開発手法です。
そのため、いくらスキルがあってもコミュニケーションが不得意なメンバーがいると、開発サイクルに影響を及ぼす恐れがあります。
コミュニケーションに苦手意識を持っている人はもちろん、一人で作業に没頭しがちな人はスクラム開発には向いていません。
また、スクラム開発やアジャイル開発の経験を持つ人がいたら、積極的にメンバーに選びましょう。
スクラム開発やアジャイル開発は開発手法への理解が深いほど成功率が上がります。
さらに経験者がいると初めてチームに参加するメンバーをリードしてくれるので、メンバー間で連携を取りやすくなります。
ベロシティを計測しPCDAを回す
スプリントは短期的なスパンで設定するため、作業量の配分には注意が必要です。
チームのベロシティに合った作業量でないとメンバーに過剰な負担をかけるだけでなく、終了可能時期が見えにくくなり、スケジュールが破綻する恐れがあります。
スプリント計画を立案する際は、チームのベロシティを計画し、適切な作業量でタスク分担を行いましょう。
それだけでなく、スプリントごとにPCDAを回すことも重要です。
開発した機能の仕上がりだけでなく、チームの動きやタスクの進め方に問題がなかったか反省し、課題があれば積極的に改善しましょう。
プロセスをブラッシュアップすれば、より適切なタスク分担ができるため、次のスプリントでより効率的な作業を実現できます。
各プロセスの意義やチームの役割を理解する
スクラム開発はスプリント計画で設定された各プロセスや、メンバーに与えられた役割の適切な実行が結果を左右します。
そのため、メンバーが各プロセスの意義やチームの役割への理解を深め、当事者意識を持って取り組まなければなりません。
とりわけメンターの役割を担うスクラムマスターは、進行状況を把握しつつ、メンバーのスキルを最大限引き出す立場です。
さらに必要があれば発生したトラブルを引き受け、他のメンバーがコア業務に集中できる環境を作る役割も担います。
スクラムマスターが機能不全を起こすとチームが失敗するリスクが高まるため、スキルだけでなく役割への理解度が高い人材を配置しましょう。
ミーティングや進捗報告を欠かさない
スクラム開発はミーティングや進捗報告のようなデイリースクラムを重視する開発手法です。
デイリースクラムはただメンバー同士の進捗を把握するだけでなく、課題の共有や解決策を協議する機会になります。
それだけでなく、メンバーが当事者意識を持ってタスクに取り組むきっかけにもなるため、デイリースクラムは欠かさず行いましょう。
チームが目指すゴールを明確にする
スクラム開発は積極的にフィードバックを取り入れるので、仕様変更への柔軟な対応が可能です。
しかし、フィードバックを際限なく取り入れ続けると、当初のコンセプトが失われ、チームが目指すゴールがブレやすくなります。
そのため、取り入れるフィードバックは取捨選択を必ず行い、必要なものだけを取り入れましょう。
また、スプリントの数が多いと作業量が増え、ゴールが見えにくくなります。
スクラム開発ではスプリントの数を制限していませんが、工数が多くなる場合はゴールを見失わないようにプロジェクト全体を俯瞰できるように計画を立てましょう。
また、デイリースクラムやスプリントレトロスペクティブを通じて、メンバー同士でゴールを明確化する作業も重要です。
ポイントを理解したうえでスクラム開発を実施しよう
アジャイル開発の一種であるスクラム開発は、少数精鋭のチームで実行する開発手法です。
機能ごとの最小単位でスプリントを組み、短期間で開発サイクルを回すため、フィードバックを取り入れやすく、仕様変更にも柔軟に対応できます。
ただし、スクラム開発はメンバー同士のコミュニケーションが不可欠なうえに、プロセスやチーム内の役割への理解が不足していると失敗する確率が高まります。
そのため、与えられた役割やタスクをこなせる人選や、進捗管理や課題の共有がスムーズにできるコミュニケーション体制の構築が重要です。
スクラム開発は成功するとスピーディーにプロダクトを完成させるだけでなく、いち早くマーケットに参入し先行者利益を得られる可能性が高まります。
成功させるためのポイントを理解し、適切な設定のスプリントで実行できるように取り組みましょう。