MESとERPの違いは?それぞれの役割の違いや導入方法を解説
こんにちは。Wakka Inc.メディア編集部です。
近年、製造業では大企業に限らず中堅企業においてもMESやERPを導入し、業務の効率化や生産性の向上を目指す企業が増えています。MESとERPは製造業が業務を改善するために重要なシステムですが、
「具体的にMESとERPがどう違うのかよくわからない」
「自社にとってはMESとERPどちらが適しているのかわからない」
という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本記事では、
- MESとERPの意味
- MESとERPの役割の違い
- MESとERPそれぞれのメリット
などについて解説します。MESやERPの導入をお考えの方は、ぜひとも本記事を参考にしてください。
自社の在庫管理を最適化したい、在庫管理についてシステム化を計画している方
ぜひ下記の資料から最適なシステムの選び方もご確認ください。
コストと販売機会の効率化をはかるための在庫管理について、システムの選び方や導入時の注意点などを解説しています。
MESとERPの違い
MESとERPは、導入目的と対象業務が異なります。簡単に定義すると次のようになります。
- MES:製造現場を支える
- ERP:全社最適化を支える
用語の定義も含めて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
MESとは:製造現場を支えるシステム
MESとは、Manufacturing Execution Systemの略です。
製造実行システムと呼ばれており、製造工程の把握と管理、作業者への指示や支援などを行うシステムのことです。
MESでは、製造に必要な資源をムダなく利用し、できる限り生産効率を高めることを目指します。
そのために、生産活動においてQCDに必要な現場情報を収集し、評価・分析できる機能を内包している点が特徴です。
近年、消費者ニーズの多様化や経済活動のグローバル化の影響を受けて、生産現場では少量多品種の生産が求められています。
ニーズに応えるためにはリードタイムの短縮などによって、生産効率を高めることが必要でしょう。
そのため、生産現場の資源やプロセスを管理できるMESを利用して製造工程を効率化していくことは、これからの重要な課題と言えそうです。
ERPとは:全社最適化を支えるシステム
ERPとは、Enterprise Resource Planningの略です。
直訳すると企業(経営)資源計画となりますが、日本語では統合基幹業務システム、ERPシステム、ERPパッケージなどと呼ばれます。
1970年代の製造業ではMRP(Material Resource Planning:資材所要量計画)が普及していました。MRPでは生産に必要な資材が、計画の対象です。
その後ここから派生してMRPⅡが誕生し、さらに管理対象が拡大され、最終的には、企業経営に関わる資源全体を対象としてERPの確立にいたっています。
ERPは会計業務、人事業務、生産業務、物流業務、販売業務など、企業の基幹業務で利用されるシステムを統合し、情報の一元化と全体最適化を図るためのシステムとして生まれました。
すなわち、主に次の5つの基幹業務機能を統合したシステムがユーザーに提供されます。
- 会計管理機能
- 販売管理機能
- 生産管理機能
- 在庫管理機能
- 人事給与管理機能
この5機能は、製造業なら多くの企業で共通して利用されるため、ERPは企業経営の最適化に欠かせないものといえます。
ERPはこのように、基幹業務システムを統合して経営資源を全社で最適化していくのを支えてくれるシステムと言えるでしょう。
【比較表】MES・ERPの違いを徹底比較
前章の定義も踏まえ、本章ではMESとERPそれぞれの役割について比較表にまとめました。
比較ポイント | MES | ERP |
管理目的 | 製造現場の最適化と生産効率アップ | 企業経営資源の全社最適化と経営効率アップ |
管理方法 | 生産計画と、各種実績データの予実管理 | 経営指標と、達成状況を把握するための各種実績データの管理 |
情報の活用目的 | 製造現場のQCD改善に向けた活動推進 | 経営指標にもとづいた経営判断 経営効率改善に向けた活動推進 |
主な利用者 | 製造・品質部門の管理層 製造・品質部門の業務担当者 | 経営層 関係業務の各管理層 関係業務の各業務担当 |
システムの導入方法 | ボトムアップ | トップダウン |
情報の粒度 | 日ごとに時間(時分秒)単位で管理 | 日付単位で管理し、月・四半期・半期・年などで集約 |
主な機能 | 仕様管理 文書管理 工程計画 製造プロセス管理 生産指示 実績データ収集 工程管理 品質管理 在庫管理 設備管理 | 製品構成管理 販売管理 生産管理 購買管理 在庫管理 生産指示 生産実績データ収集 原価管理 会計管理 経営管理 |
上の比較表より、MESよりもERPの方が機能の範囲が広く、活用者も多いのがわかるでしょう。
MESは製造・品質部門が利用者の中心なのに対して、ERPは基幹業務に関わる全ての部門が利用者になります。
また、システムの機能的にも、ERPはMESの機能を内包している点が特徴です。
MESとERPそれぞれの導入メリット
MESとERPには、導入することで得られるメリットがそれぞれあります。
本章では、MESの導入で得られるメリット、ERPの導入で得られるメリットについてそれぞれ見ていきましょう。
MESのメリット
MESを導入することで得られるメリットはいくつかありますが、代表的なところで以下の3つが挙げられます。
- 製造コストを削減できる
- トレーサビリティを確立できる
- ノウハウの可視化と共有ができる
それぞれ詳しく解説します。
製造コストを削減できる
MESを導入すると作業状況や設備の利用状況など、製造現場で必要なあらゆる情報がデータとして可視化され、現場の状況をリアルタイムで把握できます。
また、製造に必要な様々なデータを分析すれば改善活動に活かせるため、現場のムダを削減して作業をより効率化できるでしょう。
さまざまなデータを可視化することでこれまで見過ごされてきたムダを改善し、コスト削減につながることが期待できます。
トレーサビリティを確立できる
トレーサビリティとは、原材料の調達から製品の生産、消費に至るまでの過程を追跡可能な状態にすることです。
つまり、製品がいつ、どこで、だれによって作られたかを明らかにすることが目的です。
製品の品質向上や安全意識の高まりによって、トレーサビリティは様々な分野に浸透しています。
MESでは各生産工程の実績を詳細に記録しています。
そのため、生産過程でトラブルが発生した場合には、部品や原材料の流通経路をたどって生産段階まで追跡が可能です。
トレーサビリティを確立できればトラブルの原因や解決方法、再発防止策などをより具体的に検討できるでしょう。
ノウハウの可視化と共有ができる
MESでは必要な情報を蓄積できるため、ノウハウやスキルの可視化が可能です。
例えば、熟練技術者に属人化している作業があった場合、作業時間や資源の配分など、その作業の客観的な数値を明確にして業務の標準化を測れます。
また、熟練技術者のノウハウを画像などで共有しておけば、作業員全体の業務効率化も期待できるでしょう。
特定の作業者に依存していた業務ノウハウを共有することで、業務を継承しやすくなり、品質の向上にもつながります。
ERPのメリット
ERPの導入で得られるメリットも数多く存在します。代表的なメリットは、以下の3つが挙げられます。
- 企業のデータを一元管理できる
- 生産性が向上する
- 的確な経営判断ができる
それぞれ詳しく解説します。
企業のデータを一元管理できる
ERPを導入する大きなメリットは、社内のデータを一元管理できることです。
会計管理、人事管理などのスタッフ部門から、営業や製造など事業部門の業務で扱う書類など、社内で使用するデータはすべてERPで一箇所に集まります。
データが一元管理されていることで、例えば事業部門で変更されたデータがリアルタイムで自動更新され、部門や全社の帳票に反映されます。
部門やシステム間でデータの二重管理をしないため、データ間の不整合を防止できるでしょう。
また、データが一元管理されていることで、個別のシステムで同じ情報を修正するといった労力も省けます。
生産性が向上する
例えば製造業の場合、大型の注文を受けたら納期の調整のため、在庫の確認や資材の仕入れ、製造スケジュールなどを部門間で問い合わせてすり合わせが必要になるでしょう。
しかし、ERPでデータが一元管理されていれば、製品の在庫状況や製造スケジュールなどの情報が共有されているため、状況をリアルタイムに把握でき、調整作業の手間が軽減できます。
ERPでは、社内の多数の部門で必要になるデータ入力と管理を、一元化したフォームで行います。
そのため、データ入力にかかる手間や時間が大幅に削減されるでしょう。
その分、本来の業務に割く時間が増えるため、業務の効率化と生産性向上も期待できます。
的確な経営判断ができる
経営資源として必要なデータが一元管理されると、部門間で問い合わせていた情報にいつでもアクセスできるようになり、管理業務にかかる負荷は軽減されます。
必要な情報にいつでもアクセスできることは、経営判断を下すうえで大きな利点となるでしょう。
また、ERP製品の多くは、各業務で作成されたデータがリアルタイムで経営情報として反映されます。
そのため、常にリアルタイムデータをもとに的確な経営判断を行い、適切な対策を講じることができるでしょう。
自社に適しているのはMESかERPか
MESとERPそれぞれのメリットについて紹介しました。
自社の課題に適しているのがMESかERPを見極めるには、自社で解決したい課題を明確にしておくのが重要です。そして、課題を解決するためには、MESとERPどちらのメリットが活かせそうかを考えてみると良いでしょう。
また、自社で導入すべきシステムを適切に選択するためには、システム開発会社など専門家に相談するのがおすすめです。
製品の選択だけにとどまらず、システムのカスタマイズや導入の進め方などについても相談に乗ってもらえるため、まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
MESとERPの連携
ERPを導入している製造業で新たにMESを導入する場合、MESとERPのデータ連携が課題になります。
本章では、MESとERPで連携が求められる理由と、連携する際の注意点について解説します。
MESとERPの連携が求められる理由
ERPでは受注実績や需要予測に基づいて、月単位などのおおまかな生産計画を作成します。
しかし、製造現場でその計画を実行するには、MESでさらに日単位、時間単位の詳細なスケジュールにしなければならないため、ERPで作成した生産計画の連携が必要です。
また、MESで記録・収集された生産実績データは、計画の粒度に合わせて集約し、リアルタイムでERPに連携されることが求められます。
ERPでは経営に関わる情報をリアルタイムに一元管理できることが重要であり、それによって的確な経営判断に役立てられるためです。
MESとERPを連携する際の注意点
MESとERPでデータ連携を進める際、相互のデータ構成やデータの定義、データ粒度についてよく確認して連携仕様を決めることが重要です。
なぜなら、システムの目的や用途が違えばデータの持ち方も異なるからです。
つまり、相互にデータ連携を進めるには、どちらかのデータ構成や粒度に合わせて変換する必要があるでしょう。
例えば、MESとERPでは保持しているデータの時間の粒度が異なります。
ERPでは日や月単位で生産計画のデータを持っていますが、MESで持っているのはより詳細な作業スケジュールに基づいた時分単位の生産実績です。
そのため、MESに記録された生産実績のデータは、ERPに連携する段階で日単位や月単位に集約しなければいけないでしょう。もちろん、時間以外の項目でも、より大きい単位に集約しなければいけないケースは考えられます。
また、データの定義に違いがある場合も、その違いを変換して吸収しなければいけないので注意が必要です。
たとえ同じ項目であっても区分の定義が違ったり、カバーしている範囲が違ったりする可能性があります。
この場合もERP側の定義に合わせて区分を変換したり、不要なデータを除外したりといった連携仕様を検討しなければいけません。
もともと違った設計思想で開発されたシステム同士なので、データ連携を進める際は、相互の仕様の違いを十分理解して連携仕様を決めるのが重要です。
製造業DXには生産管理システムがおすすめ
製造業では現在、DXの推進が急務と言われています。
なぜなら、消費者ニーズと経済環境の変化が激しく、生産現場の改革が求められているためです。
生産管理システムの導入は、DXを推進する上で効果的な点が多くあります。本章では、生産管理システムの利用によるDXの推進について解説します。
MESを内包し生産工程全域を管理
生産管理システムにはMESの機能が含まれています。
したがって、MESの機能を十分に活用できれば、ハンディーターミナルや生産設備などと連携し、生産に関する様々なデジタルデータの記録・蓄積が可能になるでしょう。
データのデジタル化はDX推進に向けた第一歩となります。
生産プロセスを可視化しQCDの最適化を支援
生産管理システムを利用すれば、生産プロセスの実行状況がデジタルデータとして可視化されます。
つまり、生産の実績データが計画通りの水準を維持できているかが容易に確認できるため、リアルタイムで状況を見ながら改善策も打てるでしょう。
デジタルデータで生産プロセスを可視化し、
- 業務のムダを削減
- 納期の改善
- 品質の向上
といった改善活動に活かせれば、業務の効率化も期待できます。そして、生産管理システムを利用して業務を効率化できれば、デジタルデータを活用してDXを推進できたと言えるでしょう。
余剰在庫・管理コストを削減
生産管理システムを利用して生産プロセスが最適化され、計画通りの生産活動が実行できるようになれば、在庫管理においても在庫数の適正化が進むでしょう。
例えば、生産業務が効率化されることによってリードタイムが短縮できれば、製品在庫量もリードタイムの短縮に合わせて減らせます。
余剰在庫が減らせると、在庫管理にかかるコストが削減できます。
また、過剰な在庫はキャッシュフローを悪化させますが、余剰在庫が減ることでキャッシュフローが改善されるため、企業としてもより健全な経営環境が整備されると言えるでしょう。
効果的なシステムの導入で業務効率の改善を目指す
MESとERPの役割の違いや、導入することで得られるそれぞれのメリットなどについて解説してきました。
これら2つのシステムがどう違うか、自社にとってはどちらが適しているかについておわかりいただけたのではないでしょうか。
自社が抱えている課題に対して効果的にアプローチでき、よりメリットを活かせるシステムを選ぶことが業務効率を改善するためには重要です。
本記事が、効果的なシステム導入と業務効率を改善するためにお役に立てましたら幸いです。