SaaSにおけるPMFの重要性|重視される理由、測定方法を解説


低コストで簡単に導入できるソフトウェアのサービスを提供するSaaS企業は、スタートアップにおける市場でのマーケティング戦略が重要です。
多くの起業家がスタートアップの成果を見極めるために、PMFと呼ばれる指標を重視しています。
SaaSでの起業を検討している方は、PMF達成に向けた注意点と測定方法を確認しておきましょう。
本記事では、SaaS企業におけるPMFの重要性を詳しく解説します。
PMFが重視される理由と測定方法をあわせて解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
【基礎知識】SaaSとは?

SaaSとは、「Software as a Service」の略称で「サーズ」や「サース」と呼ばれます。
和訳すると「ソフトウェアのサービス」を意味しており、インターネット経由で利用できるWebサービスの総称です。
具体的には、次のようなサービスがSaaSに該当します。
- クラウドサービス
- ストレージ
- メール
- SNS
- スケジュール管理
- プロジェクト管理
- ビデオチャット
- グループウェア
- MAツール
SaaSは、クラウドサービスやSNSのようにインターネット環境があれば、どこでもサービスを利用できます。
SaaSの2つの特徴
SaaSの特徴は、次の2つです。
- 場所やデバイスを問わずにサービスを利用できる
- 複数のユーザーで一つのファイルを編集・管理できる
1つ目の特徴は、ベンダーが提供するソフトウェアをインターネット経由で利用するため、場所を問わずにどこでも利用できることです。
またSaaSを利用するにはアカウントを作成する必要があり、アカウントのログイン情報さえ入力できれば、スマートフォンやパソコンなどデバイスを問わずに利用できます。
2つ目の特徴は、複数のユーザーで一つのファイルを編集・管理できることです。
SaaSには、ドキュメント機能やストレージ機能が備わっており、複数のユーザーでファイルを共有し管理することを想定しています。
SaaSを利用すれば、場所やデバイスを問わずに、一つのファイルを複数人のユーザーで編集・管理してデータ管理を円滑化できます。
SaaSの代表的なツール
SaaSと聞いても、具体的にどのようなサービスなのかイメージしにくい方もいるのではないでしょうか。
実は普段から使用するビジネスツールの多くが、SaaSに該当します。
SaaSの代表的なツールは、次の通りです。
ツール名 | 機能 |
Microsoft 365 | オフィスソフト |
Slack | チャットツール |
ChatWork | チャットツール |
Zoom | Web会議システム |
Salesforce | CRMツール |
弥生会計オンライン | 会計ソフト |
Backlog | プロジェクト管理ツール |
freee | 会計ソフト |
Dropbox | オンラインストレージ |
Eight | 名刺管理ソフト |
上記のように、ビジネスシーンで日々利用するツールの多くが、インターネットを経由するSaaSです。
さらにスマートフォンから利用するiOS・AndroidアプリもすべてSaaSに含まれます。
SaaS企業におけるPMFの重要性

SaaS企業にとって、製品が顧客ニーズを満たして市場に普及されているかを把握するために、PMFが重要です。
PMFがなぜ重要なのかを確認するために、PMFに関する次の項目を理解しておきましょう。
- PMFとは
- PMFが重要視される理由
それぞれの項目を押さえておくことで、SaaS企業におけるPMFの重要性を理解できます。
SaaSで起業を検討している方は、PMFについて理解を深めておきましょう。
PMFとは
PMFとは「Product Market Fit」の略称で、製品が市場ニーズを獲得できているかを判断する指標です。
PMFは、アメリカの自動投資サービス企業「Wealthfront」でCEO兼共同創業者を勤め、「Benchmark Capital」の共同創業者でもあるアンドリー・ラクレフ氏によって考案されました。
その後、世界的な投資企業「Andreessen Horowitz」の創業者マーク・アンドリーセン氏がブログによって2000年代にPMFを世界に広めました。
スタートアップ企業を支援するベンチャーキャピタリストとして多くの企業を見てきたアンドリーセン氏は、PMFが企業の成否を左右する要素だと指摘しています。
PMFが重要視される理由
SaaS企業においてPMFが重要視される理由は、「どれだけ優れた製品・サービスでも市場や顧客がなければ売れない」からです。
顧客ニーズや市場調査を疎かにした状態で、新事業を立ち上げても製品やサービスを売る市場や顧客がいなければ、事業計画は失敗してしまいます。
PMFは、企業が提供する製品・サービスが市場ニーズに合っているか、適合性を判断する指標です。
PMFを行っておけば、顧客ニーズや市場調査を徹底し、市場のニーズに適した製品・サービスを開発し販売できます。
顧客ニーズや市場調査を行わないまま、新事業を立ち上げてもスタートアップの資金や人材を生かせず、廃業へと追い込まれる可能性が高いです。
SaaS企業におけるスタートアップを成功させるために、PMFが重要視されています。
SaaS企業におけるPMF達成の測定方法

SaaS企業におけるPMFを取り入れても、サービスが顧客や市場ニーズと合致しているか判断するために、達成度を測定する必要があります。
SaaS企業におけるPMF達成の測定方法は、次の通りです。
- NPS(ネットプロモータースコア)
- エンゲージメント
- アンケート調査
- リテンション
それぞれの測定方法を実施して、PMF達成度を確認しましょう。
NPS(ネットプロモータースコア)
SaaS企業におけるPMF達成を測定する方法として、NPSがあります。
NPSは「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略称で、顧客ロイヤルティを図る指標です。
具体的には、「対象の企業や製品を友人や知事にどれくらいおすすめできるか」を0〜10点までの11段階で評価してもらいます。
数値が大きいほど顧客ロイヤリティが高く、小さいほど低い傾向にあります。
点数 | 顧客属性 |
0~6点 | 批判者 |
7~8点 | 中立者 |
9~10点 | 推奨者 |
NPSの点数が高いほど、顧客ニーズを満たした製品であり、PMF達成度も高いです。
エンゲージメント
SaaS企業におけるPMF達成度の測定方法は、エンゲージメントを計測することです。
エンゲージメントは、利用者のリピート率や利用率・解約率などから顧客ロイヤルティを測定します。
エンゲージメントを測定する指標は、製品・サービスのジャンルによって異なりますが、SaaSであれば契約数や継続率・解約率が重要視されます。
契約数が多く、継続性が高いサービスは顧客ロイヤリティが高く、PMF達成率が高いです。
またエンゲージメントを計測する際には、あわせて「CPA」を算出することが大切です。
CPAとは「顧客獲得単価」を表しており、一人の顧客を獲得するために費やしたコストを指します。
どれだけエンゲージメントが高くても、CPSが高すぎると収益が少なくなるため注意が必要です。
アンケート調査
SaaSにおけるPMF達成度を計測する際には、アンケート調査を実施しましょう。
顧客にアンケート調査を実施して、ニーズとの合致性を確認することでPMFを測定できます。
アンケート調査の手法には、ストレージサービス「Dropbox」を成功へと導いたショーン・エリス氏が提唱する「Product Market Fit Survey」が効果的です。
「Product Market Fit Survey」では、顧客に対して「製品が使えなくなったらどう思いますか」という質問をして、次の選択肢から回答してもらいます。
- とても残念
- やや残念
- 残念ではない(実際にはあまり便利ではない)
- 該当なし (製品をもう使用しない)
「とても残念」と製品が使えなくなることを惜しむ顧客が40%以上いる場合、対象の製品・サービスは持続的な成長が見込めます。
リテンション
SaaSにおけるPMF達成を測定する方法に、リテンションと呼ばれる手法があります。
リテンションは、製品・サービスが顧客にどれくらい愛用されているかを示す指標です。
リテンションレート(顧客維持率)と呼ばれる指標を活用し、「顧客が一定期間中にサービスをどれくらい利用したか」を数値化して、PMF達成度を測定します。
なおリテンションレートには、主に次の3種類があります。
顧客維持率の種類 | 定義 |
フルリテンション | 毎日、サービスを使う顧客だけをカウントする方法 |
クラシックリテンション | 利用開始から1カ月経過した顧客だけをカウントする方法 |
ローリングリテンション | 任意の期間内に一度でもサービスを利用した顧客をカウントする方法 |
顧客維持率が高い顧客は、ニーズと製品が合致しておりPMF達成度が高いです。
PMF達成を目指すうえでの注意点

PMF達成を目指すうえで、次の注意点を押さえておきましょう。
- SaaS企業の40%ルールを基準にする
- 段階的なPMFを達成する
- SaaS企業の成長パターンを把握する
それぞれの注意点を押さえておくことで、SaaSにおけるPMF達成を実現できます。
スタートアップを成功させるために、各注意点を押さえてPMF達成につなげましょう。
SaaS企業の40%ルールを基準にする
PMF達成を目指すうえで、SaaS企業の40%ルールを基準にすることが大切です。
40%ルールとは、SaaS企業を評価する基準であり、次の計算式で算出されます。
「売上成長率(%)+営業利益率(%)≧40(%)」
売上成長率と営業利益率の合計値が40%を超えている場合、将来性や成長性がある事業だと判断できます。
例えば、売上成長率が55%の場合は営業利益率が-15%まで許容でき、売上成長率が25%の場合は営業利益率が15%以上必要だと判断することが可能です。
SaaS企業の40%ルールを基準に、PMF達成を目指すことで持続的に成長できる事業発展を実現できます。
段階的なPMFを達成する
SaaS企業がPMF達成を目指すうえで注意するべきポイントは、段階的なPMFを達成することです。
PMFは一度きりでなく、ペルソナによって段階的なPMFが存在します。
SaaS企業におけるPMFは、主に次の4段階で構成されます。
- PSF/サービスを提供する段階
- PMF/市場にサービスが合致している段階
- GTM/顧客へのアプローチ方法を策定・実行する段階
- Growth/市場の変化に応じて変化する段階
PMFを実施しても、市場環境は日々変化するため、継続的な成長を実現するためには何度も改良を繰り返す必要があります。
段階的なPMFを達成し、市場の変化に応じて施策やサービスを改善しましょう。
SaaS企業の成長パターンを把握する
PMF達成を目指すうえでの注意点は、SaaS企業の成長パターンを把握することが大切です。
SaaSの成長パターンは、主に次の2種類があります。
- ニッチな市場で高単価
- マス市場で低単価
まず「ニッチな市場で高単価」な成長パターンは、狭い顧客層や専門分野に特化したサービスを高単価で販売することです。
スキマ産業とも呼ばれる「競合が少ない市場で高単価なサービスを売買する」手法を指し、ニーズに適した顧客をターゲット層にします。
対して「マス市場で低単価」な成長パターンは、一般大衆向けのサービスを低単価で販売する手法です。
より多くのユーザーニーズに合致するため、顧客を見つけることは簡単ですが、競合が多く単価を下げないと取引に結びつきません。
いずれの方法で企業の成長を目指すかによって、PMFの基準が異なります。
そのため、PMFの基準を策定するために、まずは自社がどちらの成長パターンで事業を拡大していくかを検討しましょう。
SaaS企業の成功はPMF達成がカギとなる

SaaS企業の成功はPMF達成がカギとなるため、本記事でご紹介した測定方法や注意点を押さえておくことが大切です。
SaaSは日常的に使用するインターネットサービスの総称であり、数多くのサービスが市場に出回っているため、PMFを重要視する必要があります。
どれだけ優れた製品・サービスでも、売る市場や顧客がなければスタートアップを失敗させてしまうため、顧客ニーズと市場調査を徹底しなければなりません。
またSaaS企業におけるPMF対策として、NPSやエンゲージメント・アンケート調査などを実施して、顧客ロイヤルティを計測することが大切です。
PMF達成を目指すうえで、SaaS企業の40%ルールを基準に売上成長率と営業利益率から、事業の将来性と持続性を判断してください。
PMF達成を目指すうえで、まずはSaaS企業における成長パターンのいずれを選択したいかを検討する必要があります。
段階的なPMF達成を目指して、長期的に成長できるSaaSを展開しましょう。
